まず第一に,幼年期初期は,医学的にも心理学的にも,はかり知れないほど重要である。この二つの側面は,とても密接にからみ合っている。
たとえば,子どもが恐怖(心)を持てば子供の呼吸を困難にし,呼吸が困難だと,子供は種々の病気にかかりやすくなる。こういった相互関係はとても多数見られるので,誰であれ,いくらか医学的な知識がないと子供の性格を首尾よく作りあげることは望めないし,また,いくらか心理学的な知識がないと子どもの健康をうまく管理することは望めない。 このどちらの面においても,必要な知識の大部分はごく新しいものであり,その多くは古くからの(由緒ある)伝統に反するものである。
たとえば,躾け(しつけ)の問題をとりあげてみよう。子供との闘いにおける大原則は,降参するな,しかし罰するな,である。普通の親は,静かな生活を望むために時に降参し,かっとして時に罰する。正しい方法が成功するためには,忍耐心と暗示する能力との難しい組み合せが必要である。これは,心理学の例であり,新鮮な空気の問題は,医学の例である。気配りと知恵があれば,あまり厚着をしないで,昼夜絶えず新鮮な空気に触れることは,子供のためになる。しかし,気配りと知恵がなければ,湿気や突然の寒さのために体が冷えてしまう危険(があること)も無視できない。
To begin with, early childhood is of immeasurable importance both medically and psychologically. These two aspects are very closely intertwined. For example : fear will make a child breathe badly, and breathing badly will predispose it to a variety of diseases. 【note: On this Subject cf. The Nursery School, by Margaret McMillan (Dent, I9I9), P. I97 ; The Camp School, by the same author (George Allen and Unwin, Ltd,)】 Such interrelations are so numerous that no one can hope to succeed with a child’s character without some medical knowledge, or with its health without some psychology. In both directions, most of the knowledge required is very new, and much of it runs counter to time-honoured traditions. Take, for example, the question of discipline. The great principle in a contest with a child is : do not yield, but do not punish. The normal parent sometimes yields for the sake of a quiet life, and sometimes punishes from exasperation ; the right method, to be successful, requires a difficult combination of, patience and power of suggestion. This is a psychological example; fresh air is a medical example. Given care and wisdom, children profit by constant fresh air, day and night, with not too much clothing. But if care and wisdom are absent, the risk of chills from wet or sudden cold cannot be ignored.
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 13: Nursery School
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/OE13-010.HTM
[寸言]
子どもは心身両面において自分を十分コントロールすることができない。従って、子どもの心身両面に対する気配りが必要であり、そのためには、親は(幼児に関する)医学的及び心理学的な知識もある程度身につける必要がある。
身体における不調が子どもの心に悪影響を与えたり、逆に、子どもの心理状態が身体に悪影響を与えたりすることが、大人以上によくある。明らかに身体の調子が悪いことがわかれば医者にみてもらえばよいが、外見的に見ただけではよくわからない場合が少なくない。過保護もよくないし、放任主義もよくない。そのさじ加減が難しい。子どもを育てることによって親も人間的に成長していくという,常識的ではあるが,経験しないと実感できない真理。