権力(者)に従順な人間は、自分より力のない者に対しては必ず権力を振るう

SACRI-F かなり昔、多分古代ローマの愚かな人間が、「人の上に立つ人間はまず人に服従することを知らなければならない」と言っているが、真理はそのまったく逆である。人に従うことを覚えた人間は、自分の個人的創意を全部失うか、あるいは,権力に対する怒りでいっぱいになり、破壊的かつ残忍な人間となる

Some fool, long ago – probably a Roman – said that to know how to command, a man must first learn how to obey. This is the opposite of the truth. The man who has learnt to obey will either have lost all personal initiative or will have become so filled with rage against the authorities that his initiative will have become destructive and cruel.
出典:ラッセル『アメリカン・エッセイ集』の中の「優等生について」
詳細情報:http://russell-j.com/BEING-G.HTM

[寸言]
自尊心を持っている人間なら誰も誰かに服従したいとは思わない。にもかかわらず服従するのは,自分より権力を持っている人間に服従するかわりに、自分より弱い人間に対して権力を振るいためであろう。だから、そういった人間は、自分に従順な人間以外に対しては、「弱い者いじめ」をして埋め合わせをしているのである。

組織の中の「良い子」the ‘good’ boy in the organization

VIRTUE しかし,今日の若者のほとんどは,巨大な組織の末端の地位から職業人生を始めなければならない。彼の上司が経験豊かな学校の先生が持っている’寛容の精神の持主‘であるのは稀であり,組織の中の「良い子」に昇進の道を与えがちである。
不幸なことに,従順という性質は,創意(イニシアティブ)と指導力を持った人間が持っていることは稀である。

But nowadays almost every young man has to begin with a very subordinate post in some vast organisation. His superiors seldom have the tolerance of the experienced schoolmaster and are likely to give promotion to the ‘good’ boy.
Unfortunately docility is not a quality which is often found in the man capable of initiative or leadership.
出典:ラッセル『アメリカン・エッセイ集』の中の「優等生について」
詳細情報:http://russell-j.com/BEING-G.HTM

知恵が少しずつ’蒸留される’ゆったりと考える時間 slow thoughts

DOKUSH34 今の世の中には,時間のゆとりがほとんどないが,それは,昔よりも人々が忙しく働いているからではなく,楽しみを持つことが仕事同様に’努力を要する事柄’になってしまっているためである。その結果,人間は小利口にはなったが,知恵が少しずつ’蒸留’される’ゆったりと考える時間(余裕)’を持てないために,知恵は減少してしまった。

In the modern world there is hardly any leisure, not because men work harder than they did, but because their pleasures have become as strenuous as their work. The result is that, while cleverness has increased, wisdom has decreased because no one has time for the slow thoughts out of which wisdom, drop by drop, is distilled.
出典:The decay of meditation, Nov. 7, 1931. In: Mortals and Others, v.1 (1975)
詳細情報:http://russell-j.com/MEDITATE.HTM

他人と協力する三つの理由 three reasons for which you may co-operate with a man

VIRTUE (ところで,)人と協力するには三つの理由がある。一つは相手を愛するからであり,一つは相手を恐れるからであり,もう一つは不正な利得にあずかりたいと望むからである。これらの三つの動機は,人間の協力が必要なそれぞれの領域において,それぞれ異った重要性を持つ。第一の動機は’生殖’を支配し,第三の動機は’政治’を支配する。

Now there are three reasons for which you may co-operate with a man: because you love him, because you fear him, or because you hope to share the swag. These three motives are of differing importance in different regions of human co-operation: the first governs procreation, and the third governs politics.
出典:The advantages of cowardice, Novt. 2, 1931. In: Mortals and Others, v.1 (1975)
詳細情報:http://russell-j.com/COWARD.HTM

[寸言]
自分を反省してみて,権力や権限をもっている人間に対し,どのような態度で応対(「協力!」)することが多いでしょうか?
ラッセルがあげた3つの協力の形態のなかでは,第一番目の理由が望ましいわけですが,勤め人(経済人)であれば,そうでない場合も少なくありません。
特に政治の世界では第三の理由(不正な利得にあやかるため)から「協力」する場合も少ないとはいえないですが,第二の理由から「協力」する場合がかなりあるのではないかと思われます。

被雇用者の心配と雇用者の心配

Businessman_cries もしも、一週に一度、被雇用者が雇用者の鼻をつまむことを許されるか、他の方法で雇用者のことをどう思っているかを示すことを許されるならば、被雇用者の神経の緊張は緩和されるだろう。しかし、自分もまた心配ごとをかかえている雇用者にとっては、これでは事態は改善されない。被雇用者が解雇を恐れているように、雇用者は破産を恐れている。

If once a week employees were allowed to pull the employer’s nose and otherwise indicate what they thought of him, the nervous tension for them would be relieved, but for the employer, who also has his troubles, this would not mend matters. What the fear of dismissal is to the employee, the fear of bankruptcy is to the employer.
* ・・・にとって「解雇」に対応するものは、・・・にとっての「破産」である。
出典:The Conquest of Happiness, 1930, chap.5: Fatigue
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/HA15-010.HTM

祝、大村智氏,2015年度ノーベル医学・生理学賞受賞(地道な研究の成果) a quiet life

ダウンロード 全体的に言えることは、静かな生活偉大な人びとの特徴であり、彼らの快楽はそと目には刺激的なものではなかった、ということである。偉大な事業は、粘り強い活動なしには達成されるものではなく、そういう活動(仕事)は、あまりにも注意を奪い、またあまりにも困難であるので、精力を必要とするような娯楽をするためのエネルギーはほとんど残らないのである。
例外は、休暇中に肉体的エネルギーを回復するのに役立つような娯楽であり、最もよい例は山登りであるだろう。

Altogether it will be found that a quiet life is characteristic of great men, and that their pleasures have not been of the sort that would look exciting to the outward eye. No great achievement is possible without persistent work, so absorbing and so difficult that little energy is left over for the more strenuous kinds of amusement, except such as serve to recuperate physical energy during holidays, of which Alpine climbing may serve as the best example.
出典:The Conquest of Happiness, 1930, chap.4: BOredom and Excitement
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/HA14-050.HTM

競争的な精神の習憤の悪影響 The competitive habit of mind

BUN-IWA 競争的な精神の習憤は,本来競争のない領域にまで容易に侵入してくる。たとえば,読書の問題をとりあげてみよう。読書には2つの動機がある。ひとつは読書を楽しむこと,もうひとつは読書について自慢できることである。アメリカでは,成人女性が毎月何冊かの本を読むこと,あるいは,読んだふりをすることが流行している。それらの本を(すべて)読む人もいれば,第一章(だけ)を読む人もいるし,書評(だけ)を読む人もいるが,誰もそれらの本を机の上に置いている(ことでは共通している→いわゆる「積読」(つんどく))。しかしながら,彼女らは大作(古典的名作)はまったく読まない。『ハムレット』や『リア王』がブッククラブ(読書クラブや読書会)によって選ばれた月は一度もなかったし,ダンテについて知る必要があった月もなかった。それゆえ,読まれる本は(←なされる読書は),すべて現代の二流の本ばかりであり,古典的名作であることは決してない

The competitive habit of mind easily invades regions to which it does not belong. Take, for example, the question of reading. There are two motives for reading a book: one, that you enjoy it; the other, that you can boast about it. It has become the thing in America for ladies to read (or seem to read) certain books every month; some read them, some read the first chapter, some read the reviews, but all have these books on their tables. They do not, however, read any masterpieces. There has never been a month when Hamlet or King Leer has been selected by the Book Clubs; there has never been a month when it has been necessary to know about Dante. Consequently the reading that is done is entirely of mediocre modern books and never of masterpieces.
出典:The Conquest of Happiness, 1930, chap.3: Competition
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/HA13-050.HTM

[寸言]
ベストセラーだと安心して読む人がいますね。否、そういう人の方が多いかもしれません。自分の力で良書を発見するには,多くの読書経験と自分の頭で考える訓練が必要ですが,ただ多くの人ひとが読んでいるということだけで,・・・。

経済第一,お金第一:「金銭崇拝」の行きつくところ undiluted fight for financial success

DOKUSH34 ・・・・。以上のような結果,アメリカでは,知的職業にたずさわる人は,実業家のまねをし,ヨーロッパにおけるように独自のタイプをなしていない。それゆえ,アメリカには,富裕階級のすべてにおいて,金銭的な成功のための露骨な容赦ない闘いを緩和するものは,何ひとつ存在しない。アメリカの少年たちは,ごく幼いころから経済的(金銭的)な成功のみが唯一重要な事であると感じているので,’金銭的な価値のない教育’にわずらわされることを望まない。

The consequence of all this is that in America the professional man imitates the businessman, and does not constitute a separate type as he does in Europe. Throughout the well-to-do classes, therefore, there is nothing to mitigate the bare, undiluted fight for financial success.
From quite early years American boys feel that this is the only thing that matters, and do not wish to be bothered with any kind of education that is devoid of pecuniary value.
* undilted (adj.): 薄めていない、純粋の
出典:The Conquest of Happiness, 1930, chap.31:What makes people unhappy?
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/HA11-040.HTM

[寸言]
これは,ラッセルがこのエッセイを書いた1930年代のアメリカの状況ですが,現在でも状況はあまり変わっていないようです。

だいぶ以前のことですが,日本経済が比較的好調な時期に,日本の富裕層の父親が子供に百万単位のお金を渡して,株式を通して経済の勉強をさせている(また某高校でも,仮想のお金を生徒に割り当てて,株式売買を通して,経済の学習をさせている)との紹介が,日経WBSでありました。結局バブルが弾けてしまいましたが・・・。

アベノミクスということでこれまでは「相対的に」ある程度調子がよかったかもしれないですが,後1年くらいでまた元の木阿弥になり,「アベノ(の)リスク」だった,ということになるような気がしますが・・・!?。
それに,2020年のオリンピックまで,東京大地震も,南海トラフ大地震も,富士山の大爆発,のいずれも起こらないという前提でものを考えるのは危険ではないでしょうか?

「御用学者」を「学識経験者」と誤魔化しても国民はよくわからないので ・・・

KNOWLEDG 知識階級について言えば,ある医者が本当に医学のことをよく知っているかどうか,あるいは,ある弁護土が本当に法律のことをよく知っているかどうか,部外者には全然わからない。そこで.彼らの優秀さを判断するには,彼らの生活水準から推定される収入によるほうが容易である(とアメリカでは考えられている)。(アメリカにおいては)大学教授について言えば,彼らは実業家たちに金で雇われた使用人であり,そういうものとして,もっと(歴史の)古い国々で与えられているほどの尊敬を受けていない。

As for the learned professions, no outsider can tell whether a doctor really knows much medicine, or whether a lawyer really knows much law, and it is therefore easier to judge of their merit by the income to be inferred from their standard of life. As for professors, they are the hired servants of businessmen, and as such will less respect than is accorded to them in older countries.
http://russell-j.com/beginner/HA13-040.HTM

[寸言]
長谷川三千子氏(埼玉大学名誉教授)はNHK経営委員にふさわしくないのではないかと問題になりましたが,(先日退任した百田尚樹氏とともに)安部首相のお気に入りとのこと。
菅官房長官は長谷川三千子氏は「日本を代表する哲学者」であり,立派な人だと記者会見で言っていました。長谷川氏については,テレビで報道されるまで聞いたことがない人物だったのでネットで調べてみたところ,かつて「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」の代表幹事をしていたとのことで,安部首相や菅官房長官が長谷川氏をかばう理由がよくわかりました。
・菅官房長官は哲学のことはわからないと思われますが,そういった人がどうして長谷川氏が「日本を代表する哲学者」だと判断できるのでしょうか?

「生存競争」 → 実際は,他人を出し抜いて「成功」するための競争

tackle-f ・・・。それゆえ,人びとが生存競争という言葉で意味しているのは,実際は,成功のための競争にほかならない。この競争に参加しているとき,人びとが恐れているのは,明日の朝食にありつけないのではないか,ということではなくて,隣人に勝る(勝つ)ことができないのではないか,ということである

What people mean, therefore, by the struggle for life is really the struggle for success. What people fear when they engage in the struggle is not that they will fail to get their breakfast next morning, but that they will fail to outshine their neighbours.
出典:The Conquest of Happiness, 1930, chap. 3: competition
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/HA13-010.HTM