自殺の衝動にかられるラッセル-「自由人の崇拝」を書く無神論者のラッセル

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 私の生涯で最も不幸な時期グランチェスターで過ごした。私の寝室は水力製粉所に面していた(注:現在は製粉所はないらしい。)。そうして製粉所の水車の水の流れる音と’私の絶望(感)は、分離できない状態で、混じり合っていた。私は、幾晩も、長い夜を、いつまでも眠らずに、ベッドに横たわっていた。まず最初にナイチンゲール(nightingale サヨナキドリ:夜美しく鳴くので有名/上の切手の鳥)の鳴き声を聞き、それから夜明けに鳥たちの合唱を聞き、日の出を眺め、そうして外界の美しさに慰めを見いだそうと努めた。私は、孤独から、非常に激しく、悩み苦しんだ。1年前は、孤独は人間の本質的な運命であると思っていた。私は、風になびいている白柳(whitening willows)が、平和の国からのメッセージを何かもたらしているのではないかと、ぼんやりと思いながら、グランチェスター周辺の野原を一人で散策した。
TPJ-ABR1 私は、宗教書の著者たちが自分たちの信条から得ている’慰め’のうちに、独断的な教条によらない何かがあるにちがいないという希望をいだいて、テイラー(Jeremy Taylor, 1613-1667)の「聖なる死」といったような宗教書を何冊か読んだ。純粋な瞑想の中に避難しようと試みた。即ち、「自由人の崇拝」(A Free Man’s Worship)を執筆し始めた。散文のリズムを組み立てることは、私が真の慰めをいくらか見いだした唯一のものであった。

The most unhappy moments of my life were spent at Grantchester. My bedroom looked out upon the mill, and the noise of the millstream mingled inextricably with my despair. I lay awake through long nights, hearing first the nightingale, and then the chorus of birds at dawn, looking out upon sunrise and trying to find consolation in external beauty. I suffered in a very intense form the loneliness which I had perceived a year before to be the essential lot of man. I walked alone in the fields about Grantchester, feeling dimly that the whitening willows in the wind had some message from a land of peace. I read religious books such, as Taylor’s Holy Dying, in the hope that there might be something independent of dogma in the comfort which their authors derived from their beliefs. I tried to take refuge in pure contemplation; I began to write The Free Man’s Worship. The construction of prose rhythms was the only thing in which I found any real consolation.
出典:The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 6: Principia Mathematica, 1967]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB16-090.HTM

[寸言]
情熱的な恋愛で5歳年上のアリスと結婚したラッセル。しかし、いろいろな行き違いが重なり、いつしかアリスから心が離れていく。
また、ラッセルは(両親が早くなくなり孤独であったので)子どもが欲しいという気持ちが人一倍強かったが、アリスは子どもが産めない身体であることが判明する。そうして、ラッセルは一生子どもを持つことはあきらめようと決意する。

グランチェスターはホワイトヘッド夫妻が住んでいた家であるが、ホワイトヘッドとプリンキピア・マテマティカを共同執筆していた時期、ラッセルも同居していた。
ラッセルはホワイトヘッドの奥さん(Evelyn)に好意をもっていたが、心臓病をわずらっていた。ある日、ラッセルは、グランチェスターの家にもどると、Evelyn が心臓病で死の苦しみに陥っている姿を目の前にする。しかし、何もしてあげることができない。Evelyn が独りで苦しむ姿を目撃し、人間の孤独をまざまざと実感し、今後は、人々の苦しみを少しでも減らす仕事をしたいと「回心」する。