知育や知性を道徳的配慮によってスポイルしてはならない

知育が道徳的な配慮によって左右されることは,知性のためにも,またひいては(最終的には)性格のためにも,良くないことである。ある種の知識は有害で,ある種の無知は有益だと考えるぺきではない。教授される知識は,知的な目的のために教授されるべきであり,道徳的または政治的な結論を立証するために教授されるべきではない。
Albert-Einstein-Quote-Reads-too-Much 教育の目的は,生徒の観点からすればひとつには子どもの好奇心を満たしてあげること,ひとつには生徒が自ら好奇心を満たすために必要な技術を子どもに与えることにあるべきである。教師の観点からすれば子どものある種の実りある好奇心を刺激してあげることでもなければならない。
しかし,たとえ子どもの好奇心が学校のカリキュラムからまったくはずれた方向に向かうとしても,決して子どもの好奇心をくじいてはならない。カリキュラムを中断すべきだと言っているのではなく、その子どもの好奇心は賞賛すべきものとみなすべきだと言いたいのであり、また,少年少女には,たとえば図書室の本などによって,放課後に好奇心を満たす方法を教えてあげなければならない

It is a bad thing for intelligence, and ultimately for character, to let instruction be influenced by moral considerations. It should not be thought that some knowledge is harmful and some ignorance is good. The knowledge which is imparted should be imparted for an intellectual purpose, not to prove some moral or political conclusion. The purpose of the teaching should be, from the pupil’s point of view, partly to satisfy his curiosity, partly to give him the skill required in order that he may be able to satisfy his curiosity for himself. From the teacher’s point of view there must also be the stimulation of certain fruitful kinds of curiosity. But there must never be discouragement of curiosity, even if it takes directions which lie outside the school curriculum altogether. I do not mean that the curriculum should be interrupted, but that the curiosity should be regarded as laudable, and the boy or girl should be told how to satisfy it after school hours, by means of books in the library, for example.
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 14: General principle.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/OE14-020.HTM

[寸言]
tumekomi-kyoiku 学習指導要領やカリキュラムで決められたことだけを教えるとか、正解のあるものだけ教えるということであってはならない。特に日本では、正解がなく、自分でいろいろ考えさせる教育が貧弱である。上位の学校へあがるための受験教育や受験勉強も大きく影響している。また、教科書検定制度の弊害も大きい。日本は科学技術は世界一流であっても、教育哲学や教育方法においては二流となっている。たとえITを駆使した授業・学習が増加していったとしても(「教育技術」が発達しても)、国家のための人材養成や論理的思考能力を養わない(いわば知性を軽視する)教育のままであるならば、日本国民の人間力は向上しないであろう。そうして、「日本スゴイですね」と自画自賛する国民を量産しかねない。