不都合な真実?-トリニティ・コレッジにおけるスキャンダル

kingedwardvii 以上の3人(注:学寮長,副学寮長,下級学監)に次いで,(ケンブリッジ大学の)トリニティ・コレッジ(下のイラスト・マップ参照)における最重要人物は,守衛長であったが,彼は王族のような威厳をもった堂々とした風貌をしていたので,学部生からは将来のエドワード七世(注:Edward the 7th, 在位1901~1910/ラッセルが学部生の時は,皇太子であったため,「将来の」という形容詞がついていると思われる。右写真参照)の私生児だろうと想像されたほどであった。
私がフェローになった以後のある時,連続して5日間,極秘の評議会が開催されたことを私は知った。非常に困難ではあったが,私は,彼らの相談事がなんであったかがわかった。彼らはその守衛長が5人の寝室係(の女性)(松下注:コレッジにおける寮生のベッドメイキング役 --『トリニティ・コレッジ規則』(Statutes)により,彼女たちは’若くも美しくもなかった)  と不適切な(みだらな)関係を結んだという痛ましい事実を立証することに従事していた。

学部生として私は,トリニティ・コレッジ(学寮)の教師達は,大学には全く不要であると確信していた。彼らの講義は,何の役にもたたなかった。それゆえ私は,いずれ自分が講師になった時には,講義をすることが何かの役に立つものだとは思わないようにしようと自分自身に誓った。そして私はこの誓いを守った。

trinitycollege-mapNext to these three the most important person in the College was the Senior Porter, a magnificent figure of a man, with such royal dignity that he was supposed by undergraduates to be a natural son of the future Edward the Seventh. After I was a Fellow I found that on one occasion the Council met on five successive days with the utmost secrecy. With great difficulty I discovered what their business had been. They had been engaged in establishing the painful fact that the Senior Porter had had improper relations with five bedmakers, in spite of the fact that all of them, by Statute, were ‘nec juvenis, nec pulchra’.
As an undergraduate I was persuaded that the Dons were a wholly unnecessary part of the university. I derived no benefits from lectures, and I made a vow to myself that when in due course I became a lecturer I would not suppose that lecturing did any good. I have kept this vow.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 1, 1967]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB13-220.HTM

[寸言]
学生と問題を起こすといけないので,『トリニティ・コレッジ規則』では,寝室係(ベッド・メイキングや掃除をする担当者)の女性は若い女性や美人は雇用しないことになっているようですね。

因みに,’nec juvenis, nec pulchra‘ですが,英語の junior はラテン語 juvenis 「若い」の比較級で,junior 「より若い」に由来しており,ラテン語 juvenis を語源とする英語には,他に juvenile 「少年少女の,若い」があります。また,pulchra は,ラテン語で’美しい’の意。