ケンブリッジ大学トリニティ・コレッジ奨学生資格試験の準備

waidan_ueno-chizuko 16歳の誕生日を迎える直前,私は,当時田舎にあったオールド・サウスゲートの陸軍のクラマー(受験準備のための学校)に入学させられた。私がそこにやられたのは,陸軍に入るための受験準備が目的ではなく,ケンブリッジ大学のトリニティ・コレッジの奨学生資格試験(準備)のためであった。けれども,聖職につこうとする1,2の’地獄行き’の者を除いて,ほとんど全員が,陸軍に入ろうとしていた。私を除いた全員が,17か,18か,19(歳)であったので,私が最年少であった。彼らは皆,ちょうど売春婦のところに頻繁に通いはじめる年頃であり,売春婦通いが彼らの会話の主な話題であった。彼らのなかで最も賞賛されていたのは,以前梅毒にかかったが治ったと主張していた青年であり,そのことは,彼に大いなる栄光を与えた。彼らは車座に座り,猥談をするのを習慣としていた。どんな出来事も,彼らは淫らな話をする機会にしてしまった。ある時,その受験予備校(の教師)が,彼らのうちの一人に,一枚の書き付けをもたせ,近隣の家に届けさせた。戻って来た彼は,みんなに,ベルを鳴らしたらメイド(女中)が出て来たので,彼女に彼が,「手紙(letter はフランス語で’コンドーム’の意味もある)持って来ました」と言ったら,それに対して彼女は,「あなたが’手紙’を持って来てくださり,私は嬉しい。(もちろん彼女はフランス語の’letter’には’コンドーム’の意味もあることは知らないであろう。)」と答えた,と語った。
ある日,教会で,「いざや我がエベネゼル(注:イスラエル人の勝利を記念してサムエルが建てた石の名)を高くかかげん」という賛美歌の中の一句が歌われると,彼らは,「私は今までそのように(男性のシンボルのことを我がエベネゼルと)呼ばれるのを聞いたことがない」と言った。(注:I’ll raise my Ebenezer は,「男性のシンボルを奮いたたせよう!」といった意味にもとれるということか?)

Just before my sixteenth birthday, I was sent to an Army crammer at Old Southgate, which was then in the country. I was not sent to in order to crammer for the Army, but in order to be prepared for the scholarship examination at Trinity College, Cambridge. Almost all of the other people there, however, were going into the Army, with the exception of one or two reprobates who were going to take Orders. Everybody, except myself, was seventeen or eighteen, or nineteen, so that I was much the youngest. They were all of an age to have just begun frequenting prostitutes, and this was their main topic of conversation. The most admired among them was a young man who asserted that he had had syphilis and got cured, which gave him great kudos. They would sit round telling bawdy stories. Every incident gave them opportunities for improper remarks. Once the crammer sent one of them with a note to a neighbouring house. On returning, he related to the others that he had rung the bell and a maid had appeared to whom he had said: ‘I have brought a letter’ (meaning a French letter) to which she replied: ‘I am glad you have brought a letter.’ When one day in church a hymn was sung containing the line: ‘Here I’ll raise my Ebenezer,” they remarked: “I never heard it called that before!’
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 2, 1967]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB12-090.HTM

[寸言]
当時の英国では、貴族の子弟は学校教育を受けることなく、個人家庭教師によって種々の教養を身に着けていました。ラッセルの場合も、幼稚園に通ったのと、大学受験の予備校に通った他は、学校教育を受けたことはありませんでした。
ラッセルがケンブリッジ大学のトリニティ・コレッジの奨学生資格試験準備のために通った予備校(クラマー)の生徒は大部分が陸軍に行こうとする若者(ラッセルより年上)であり、猥談にあけくれる姿を目にして,青年ラッセルはショックを受けます。
なお、大学教育を受けるのはケンブリッジ大学にあがってからですが、(多くの貴族の子弟も同様でしょうが)ラッセルは,大学に入学する前に既に,(叔父から科学教育を受けたことも含め)今日の大学生が4年間で学ぶ以上の「教養」を身に着けていたことを頭においておいたほうがよいでしょう。