たとえば,インドでイギリス人がしていることについて考えてみよう(注:これは1932年に書かれたものです!)。たいていのイギリス人には,インド在住の同胞は,蒙昧主義,不寛容,迷信に抗して,勇敢に文明の恩恵を普及すべく闘っているように映る。他方,ほとんどの外国人には,インドのイギリス人は,権力を振るい,貢ぎ物を強要する残忍な専制君主としてしか映らない。インド在住のイギリス人がどのように感じているかを知りたければ,イギリスの視点に立たなければならない。だが,イギリス人がインドでやっっていることを知りたければ外国人の視点に立たねばならない。同様のことが,ハイチや中央アメリカにおけるアメリカ人の行動や,帝国主義者全体の所業一般についていえるだろう。
(イラスト出典: Bertrand Russell’s The Good Citizen’s Alphabet, 1953)
Take, for example, the behaviour of the British in India. To most English people it seems that Anglo-Indians have been struggling heroically to spread the light of civilisation in the face of obscurantism, intolerance and superstition. To almost everybody who is not British, the British appear in India as brutal tyrants, enjoying power and extracting tribute. If you wish to know how an Anglo-Indian feels, you must adopt the British point of view; whereas if you want to know what he does, you must adopt the point of view of the rest of the world. The same thing may be said of the doings of Americans in Haiti and Central America, and of imperialist doings generally.
出典: As others see us (written in Mar. 23, 1932 and pub. in Mortals and Others, v.1, 1975.]
詳細情報:http://russell-j.com/AS-O-SEE.HTM
[寸言]
他人を理解する鍵は「愛(情)」だという人がいますが,ラッセルが言うように,「感情」は誤った判断をする大きな原因でもあります。他国の理解においても同様のことが言えます。我々はマスコミから多くの影響を受けますが,自分の気持ち(好き嫌い)にそった情報ばかりを得やすいという傾向があります。「愛」「好意」の反対は「憎しみ」「悪意」ではなく「無関心」です。外界(人,物,及び国家や社会のような抽象的な対象)を理解するためには,できるだけ多くの視点で考え,総合判断をすることが大切だと思われます。