ラッセル『権力-その歴史と心理』第6章 むきだしの権力 n.20

 むきだしの権力の時期は,通常,短い。それは,一般的に言って次の三つのうちのいずれかで終る第一は,外国による征服(によるもの)であり,それ については,我々は,既に,ギリシアとイタリアの例で考察した。第二は,安定した独裁制の確立(によるもの)であり,それはやがて伝統的なものになってゆく。この最も顕著な例は,アウグストウス(注:ローマ帝国初代皇帝でパクス・ロマーナ(ローマの平和)を実現。在位:紀元前27年 – 紀元14年)の帝国(ローマ帝国)であり,それはマリウス(注:Gaius Marius 共和制ローマ末期の軍人)からアントニウス(注:Marcus Antonius 、共和政ローマの政治家・軍人)の敗北に至るまでの内乱時代の後に来たものである。第三は,言葉の最も広い意味での,新興宗教の勃興(によるもの)である。(注:キリスト教を既成宗教とすれば,それ以降のものは全て「新興宗教」「新しい宗教」というい位置づけになる。)これについては,その明確な一例は,モハメッドが、それ以前争っていたアラビアの各部族を統一したやり方である。第一次大戦後の国際関係におけるむきだしの権力の支配は,もしロシアに輸出できるだけ
の食糧の余剰があったのであれば,ヨーロッパ全土を通じての共産主義の採用ということになって終っていたかもしれない。(注:実際は,ロシアは自国のことだけでせいいっぱいで,そういったことにはならなかった。)

Chapter VI: Naked Power, n.20

Periods of naked power are usually brief. They end, as a rule, in one or other of three ways. The first is foreign conquest, as in the cases of Greece and Italy which we have already considered. The second is the establishment of a stable dictatorship, which soon becomes traditional; of this the most notable instance is the empire of Augustus, after the period of civil wars from Marius to the defeat of
Antony. The third is the rise of a new religion, using the word in its widest sense. Of this, an obvious instance is the way in which Mohammed united the previously warring tribes of Arabia. The reign of naked force in international relations after the Great War might have been ended by the adoption of communism throughout Europe, if Russia had had an exportable surplus of food.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER06_200.HTM