ラッセル『権力-その歴史と心理』第7章 革命的な権力 n.2

 私は,革命的な権力(革命をもたらす権力)について,以下の4つの例を考察することによって,例証(説明)してみよう。

(I) 初期キリスト教; (II) 宗教改革;(III) フランス市民革命とナショナリズム;(IV) 社会主義とロシア革命

(I)初期キリスト教

 私は(ここでは),権力と社会組織に影響を及ぼしたかぎりでのキリスト教に関心をもっており,付随的に(ついでに)述べる場合を除き,キリスト教の個人的宗教の側面(注:無教会主義によく現れている)については対象外とする。

 キリスト教は,その最も初期の時代においては,政治とは全く無関係であった。現代において,この原始的な伝統を最もよく代表しているのは,(キリスト教の)クリスタデルフィアン(注:アデルフィアン派とも呼ばれる/意味はキリストの兄弟姉妹)であり,彼らはこの世の終りが差し迫っていると信じ,世俗の事に関与することを拒否する。けれども,このような態度は,キリスト教の少数派にのみ可能なことである。キリスト教の信者数が増え,キリスト教会が強力になってゆくにつれて,国家に影響を及ぼしたいという欲求が大きくなっていくことは避けがたいことであった。(ローマ皇帝)ディオクレティアヌス(紀元244年~311年)が行なったキリスト教徒の迫害は,この欲求を大いに強めたに違いない。(ローマ皇帝)コンスタンティヌス1世(注:272年-337年/ミラノ勅令を発布してキリスト教を公認)のキリスト教への改宗の動機はいささか(多少)はっきりしないままであるが,主として政治的なもの(動機)であったことは明らかであり,それは,キリスト教会が(当時)政治的に大きな影響力を持つようになっていたことを暗示している。教会の教えとローマ帝国の伝統的な教義との間の違いは非常に大きく,コンスタンティヌス帝の時代に起こった革命(注:キリスト教の公認)は,我々の既知の歴史の上で最重要なもの(出来事)に数えなければならない。

Chapter VII: Revolutionary Power, n.3

I shall illustrate revolutionary power by considering four examples :

(I) Early Christianity; (II) The Reformation ; (III) The French Revolution and Nationalism ; (IV) Socialism and the Russian Revolution.
I. Early Christianity.

I am concerned with Christianity only as it affected power and social organization, not, except incidentally, on the side of personal religion.
Christianity was, in its earliest days, entirely unpolitical. The best representatives of the primitive tradition in our time are the Christadelphians, who believe the end of the world to be imminent, and refuse to have any part or lot in secular affairs. This attitude, however, is only possible to a small sect. As the number of Christians increased and the Church grew more powerful, it was inevitable that a desire to influence the State should grow up. Diocletian’s persecution must have very much strengthened this desire. The motives of Constantine’s conversion remain more or less obscure, but it is evident that they were mainly political, which implies that the Church had become politically influential. The difference between the teachings of the Church and the traditional doctrines of the Roman State was so vast that the revolution which took place at the time of Constantine must be reckoned the most important in known history
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER07_020.HTM