「民主主義」の意味(続き)
政治的情熱は非常に毒気を含んでおり,また,人間にとって自然なものであるので,政治の領域においては,言語の正確な使用法を最初に十分教えることはできない。(そこで)比較的わずかの情熱しか掻き立てない言葉から始めるのが容易である。知的中立の訓練(知的中立性を養う訓練)の最初の効果(結果)は,冷笑主義(シニシズム)のように見えがちである。
たとえば「真理」という言葉をとってみよう。畏敬の念を込めてこの言葉を使う者もいれば,ポンティウス・ビラト(注:Pontius Pilate, ピラト:ローマ帝国のユダヤ属州総督。新約聖書においてイエスの処刑に関与した総督として登場する。)のように,嘲笑をもって使う者もいる。「真理(性)は文の属性の一つである。」といった陳述を初めて聞くと,。(中立性について)学ぶ者は,文は素晴らしいものでもつまらないものでもない(注:つまり中立である)と考えることに慣れているので、ショックを受ける。(注:どういうわけか,みすず書房版の中村訳『(ラッセル)自伝的回想』では訳出されていない。)あるいは,また,「無限」という言葉をとってみよう。人々はあなたに有限の精神は無限を理解できないと教えるだろう。しかし,彼らに「あなたは〝無限″(という言葉)をどういう意味で使い,人間精神はどういう意味で有限なのか」と尋ねれば,彼らはただちに怒り出す(正気を失う)だろう。事実,「無限」という言葉は数学者によってあたえられている完全に精確な意味をもっており,それは,数学におけるほかのいかなるものと同じく,完全に理解できるものである。
Political passion is so virulent and so natural to man that the accurate use of language cannot well be first taught in the political sphere; it is easier to begin with words that arouse comparatively little passion. The first effect of a training in intellectual neutrality is apt to look like cynicism. Take, say, the word “truth,” a word which some people use with awe, and others, like Pontius Pilate, with derision. It produces a shock when the learner first hears such a statement as “truth is a property of sentences,” because he is accustomed to think of sentences neither as grand nor as ridiculous. Or take again the word “infinity”; people will tell you that a finite mind cannot comprehend the infinite, but if you ask them “what do you mean by ‘infinite,’ and in what sense is a human mind finite?” they will at once lose their tempers. In fact, the word “infinite” has a perfectly precise meaning which has been assigned to it by the mathematicians, and which is quite as comprehensible as anything else in mathematics.
出典: A Plea for Clear Thinking(1947)
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/0868_PfCT-040.HTM
<寸言>
まともに議論をしたくない人は、言葉を話し合いの道具ではなく、相手を非難するため、武器として使う。言葉は敵にぶつけられ、相手からなげられる言葉はナンセンスとして、弱められる。