好奇心 - 一人でも生きていける力を身につけるために外界を知る

kokisin_katamari 生後第二年は,すこぶる幸福な年であるべきである。
 歩くことやおしゃべりすることは,新しく身につけた能力であり,そこから,自分は自由かつ力があるという感覚を子どもにもたらす。子供は,日毎にこの二つの能力を伸ばしていく。(ラッセル注:これは,ことによると,厳密に言えば正確ではないかも知れない。大部分の子どもには,見かけ上進歩が停滞する時期があり,経験不足の親の心配の種を与える。だが,多分,こういう期間中も,容易に知覚できない仕方で進歩があるのであろう。)
【岩波文庫の安藤貞雄訳では,apparent のところは「’明らかに’進歩が止まる時期がある」と訳されているが,それでは「こういう期間中も,容易に知覚できない仕方で進歩があるのであろう」という文章と矛盾してしまう。この apparent は「見かけ上は」と訳すべきであろう。

yoji-kokisin 独りで遊ぶこともできるようになり,子供は「世の中を見る」ということについて,大人が地球上を最大限飛び回って得られる以上の,生き生きした感覚を持つようになる。鳥や花,川や海,自動車や汽車や汽船は全て,幼児に喜びや強い興味をもたらす。好奇心は無限である。この時期一番多く使われる言葉は,「見たい」である。
小児用ベッドや乳母車に閉じこめられていた後,庭や野原や海辺を自由に走り回ることによって,解放されたという精神的高揚感がわいてくる。消化力も,通例,一年目よりも強くなり,食べ物の種類も多様化し,ものをかんで食べることも新しい喜びとなる。
以上のような理由で,もし子供が世話が行き届き健康であれば,子どもにとって人生はすばらしく甘美な冒険となる。

The second year of life should be one of great happiness. Walking and talking are new accomplishments, bringing a sense of freedom and power. Every day the child improves in both.(note: This is perhaps not strictly accurate. Most children have periods of apparent stagnation, which cause anxiety to inexperienced parents. But probably throughout these periods there is progress in ways that are not easily perceptible.) Independent play becomes possible, and the child has a more vivid sense of “seeing the world” than a man can derive from the most extensive globe-trotting. Birds and flowers, rivers and the sea, motor-cars and trains and steamers all bring delight and passionate interest. Curiosity is boundless : “want to see” is one of the commonest phrases at this age. Running freely in a garden or a field or on the seashore produces an ecstasy of emancipation after the confinement of cot and pram. Digestion is usually stronger than in the first year, food is more varied, and mastication is a new joy. For all these reasons, if the child is well cared for and healthy, life is a delicious adventure.
* mastication (n):噛むこと,咀嚼
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 4: Fear.
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/OE04-010.HTM

[寸言]
人間だけでなく、いかなる動物も、幼い頃は外界に対する好奇心が旺盛である。それ(好奇心)は、一人で生きていける力を早く身につけるために必要な、生まれつき備わった性質なのであろう。