「正当な」遺産相続と「不当な」遺産相続ーラッセル家の場合


donation_jar_full_of_coin 金銭上(家計上)の観点から言っても,終戦(第一次世界大戦の終結)は非常に好都合であった。『プリンキピア・マテマティカ』を書いている間は,(利益がでない純粋にアカデミックな意義のある仕事をしている間は)(父の)遺産で生計をたてることは正当化されると思っていたが,さらに祖母が遺してくれた資産も自分のものにすることは正しくないと感じた。そこでその金額に相当するお金は全て寄付することとし,一部はケンブリッジ大学(本部)へ,一部は(ケンブリッジ大学)ニューナム・コレッジヘ,残りは種々の教育目的のために寄付した(*注1)。そうして社債T.S.エリオットにあげ,手放して以後,私の手許に残った不労所得は,年約百ポンドだけになった。それだけは私の婚姻継承的不動産処分(marriage settlement)のためのものであったので,なくすることができなかった(*注2)。
このこと(収入は年100ポンドのみという状態)は --私は著作でお金を稼げるようになっていたので-- たいした事だとは思われなかった。けれども,刑務所内においては,数学に関する著作は許されていたが,お金を得られるような本を書くことは許されなかった。そのために,もし,チャールズ・サンガーや何人かの他の友人が,私にロンドンにおける哲学の講師(講演者)の仕事を世話してくれなかったら,私が出所してきた時は,ほとんど一文無しの状態になっていたであろう。終戦とともに,私は再び執筆で収入を得ることができるようになった。以後,--滞米時に時々経済的に苦しい時はあったが(注:1939年にカリフォルニア大学の客員教授をやめてバーンズ財団に雇われる1940年末までは経済的に困窮した。)--,それ以外には,深刻な経済的な困難に陥ることはまったくなかった。
(注1:トリニティ・コレッジではなく,なぜ女子校のニューナム・コレッジ(ニューンハム・コレッジ)に寄付したのか不詳。祖母か,亡き母の関係だろうか)
(注2)marriage settlement:不動産譲渡の性質をもった継承的不動産処分。婚姻することを条件として婚姻の前に婚姻当事者の双方または一方,あるいは両親や親族が設定するもの(『研究社新英和大事典』より/参考:イギリス不動産法の単純化と土地移転の簡易化)

From a financial point of view also the ending of the War was very advantageous to me. While I was writing Principia Mathematica I felt justified in living on inherited money, though I did not feel justified in keeping an additional sum of capital that I inherited from my grandmother. I gave away this sum in its entirety, some to the University of Cambridge, some to Newnham College, and the rest to various educational objects. After parting with the debentures that I gave to Eliot, I was left with only about £100 a year of unearned money, which I could not get rid of as it was in my marriage settlement. This did not seem to matter, as I had become capable of earning money by my books. In prison, however, while I was allowed to write about mathematics, I was not allowed to write the sort of book by which I could make money. I should therefore have been nearly penniless when I came out but for the fact that Sanger and some other friends got up a philosophical lectureship for me in London. With the end of the War I was again able to earn money by writing, and I have never since been in serious financial difficulties except at times in America.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.2 chap. 2:Russia, 1968]
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/AB22-010.HTM

[寸言]

Cartoon boss man looking greedily at a pair of money bags.
Cartoon boss man looking greedily at a pair of money bags.

大部分の人は高額な遺産を受け取ることはない。そうして、もしも高額な遺産をもらったり、高額な宝くじが当たったら、「一部を寄付をします!」と言ったりする(人が少なくない)。しかし、そう言う人でも、「実際に」寄付をする人は少ない。

ラッセルは,収入を得られない学術研究に専念するために「遺産」を活用することは許されるだろうが、自分が安楽に暮らすために(労働せずに)遺産を使うことは不当だと考え、そのような余分な遺産は全て社会的目的のために寄付をした。
 もし多額の遺産を相続するようなことがあった場合、あなたならどうしますか? 執筆だけで生計をたてることはできないので・・・?

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