アラン・ウッド「ラッセルの哲学」概観と手引 05

         円 積 問 題

 哲学者は全て失敗者である。 しかし、ラッセルはそれを認めるだけの誠実さをもった少数者のひとりであった。この点に(Therein そこに)彼のこの上ない重要性がある。彼がカントについて称賛して書いたように、、彼についても次のように書くことができそうである。即ち、 「率直な( candid 偏見のない/公平な哲学者なら,自分が究極の真理に到達したとはとても思えない(言えない)ことを認めるべきであろう。しかし、人間性における教祖(自分の先生)を信じるという直し難い傾向(the incurable tendency to discipleship in human nature)から考えると、(始祖/先達の)哲学者は、もし彼が自分の失敗を極めてはっきりさせておかないと、後の人(弟子、崇拝者)からは究極の真理に到達したと考えられるにいたるであろう。そのこと(自分の失敗)をはっきりさせておく義務は、カントがそのその率直さ(candour)ゆえに他の大多数の哲学者たちよりもより優れた業績へと導いたもの(義務)であった。」
 ラッセルの哲学的思想は、彼の確実な知識の追求の副産物であった。そうして、その追求は失敗に終った。では(then)彼の失敗がいかにしてとても生産的なものでありえたのだろうか? 大雑把に言えば、それは二つのちがった仕方で生じた(のであった)。
(a) ある哲学的問題が解決(解法)をまったくもたないことを明らかにすることは、その問題に対するひとつの解決(解法)である。あたかも、数学においてリンデマン(Lindemann)が円を正方形に直すことが不可能であることを示した場合のようにである。(訳注:古代の幾何学者によって円積問題(与えられた長さの半径を持つ円に対し、定規とコンパスによる有限回の操作でそれと面積の等しい正方形を作図することができるか)が提示されていました。フェルディナント・フォン・リンデマンは、11882年にフェルディナント・フォン・リンデマンは、近似的に作図することはできても、π(パイ)は無理数であるだけでなく超越数であるために、原理的に、作図することは不可能であることを証明しました。)
(b) ラッセルは、彼(自分)の探究の中で、確実性を与えることはできなかったにせよ、知識を増やす、ひとつの顕著な哲学的方法を開発した。彼は次のように言っている。「真に哲学的な問題は、全て分析の問題である。そして分析の問題において、最良の方法は、結果から出発して前提にいたるという方法 ある」。*
* 「数理論理学の哲学的意義」(『モニスト』1913年10月号掲載)  なお、『外界についての我々の知識』(1914年刊)p.211参照

Summary and Introduction 05 All philosophers are failures. But Russell was one of the few with enough integrity to admit it. Therein lies his supreme importance. One might write of him, as he himself wrote in praise of Kant, that: ‘A candid philosopher should acknowledge that he is not very likely to have arrived at ultimate truth, but, in view of the incurable tendency to discipleship in human nature, he will be thought to have done so unless he makes his failures very evident. The duty of making this evident was one which Kant’s candour led him to perform better than most other philosophers.” His philosophical ideas were the by-products of his quests for certain knowledge, and these quests ended in failure. How then could his failures prove so fruitful? Broadly speaking, this came about in two different ways. (a) It is a solution to a philosophical problem to show that it has no solution: just as it was an advance in mathematics when Lindemann showed that it is impossible to square the circle. (b) In his quests Russell developed a distinctive philosophical method which added to knowledge, even though it could not confer certainty. ‘Every truly philosophical problem”, he said, ‘is a problem of analysis; and in problems of analysis the best method is that which sets out from results and arrives at the premisses.? *1
*1 ‘Philosophical Importance of Mathematical Logic’ (Monist, Oct. 1913 cf. Our Knowledge of the External World, 1914, p.211Source: My Philosophical Development, 1959, by Bertrand Russell.

More info.: https://russell-j.com/beginner/wood_br_summary-and-introduction_05.html

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