最初の結婚とともに、私は非常に幸福かつ実り多い仕事のできる時期に入った。感情(情緒)の上でのトラブルはまったくなく、私の全エネルギーは知的な仕事の方面に注がれた。結婚の初期の時期を通して、数学と哲学の両方にわたって幅広く読書をした。私は、ある一定量のオリジナルな研究を成し遂げ、後年進める他の研究への基礎を据えた。海外旅行をし、時間のある時は、主として歴史関係の大量の堅実な読書をした。妻と私は、夕食後、交互に音読するのを習慣とし、私たちは、そのようにして、おびただしい数の標準的な巻数の多い歴史書をこつこつと読んだ。このようにして読んだ最後の歴史書は、グレゴロヴィウスの「ローマ市史」(全8巻)であったように思う。この時期は、私の生涯のうちで、知的に最も実り多い時期であり、それを可能にしてくれた最初の妻に、恩があり感謝している。(写真:結婚して間もないラッセル夫妻/初婚相手は5歳年上のアメリカ人女性)
With my first marriage, I entered upon a period of great happiness and fruitful work. Having no emotional troubles, all my energy went in intellectual directions. Throughout the first years of my marriage, I read widely, both in mathematics and in philosophy. I achieved a certain amount of original work, and laid the foundations for other work later. I travelled abroad, and in my spare time I did a great deal of solid reading, chiefly history. After dinner, my wife and I used to read aloud in turns, and in this way we ploughed through large numbers of standard histories in many volumes.
出版: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 5: First marriage, 1967]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB15-050.HTM
[寸言]
このような幸せな状態(結婚生活)は10年間も続かなかった。即ち、1901年秋に、突然、ラッセルは妻アリスのことを愛していないことに気づき、愕然とすることになる。
しかし、生涯のうちで、知的に最も実り多い時期を過ごせたのは最初の妻(アリス)のおかげだと、ラッセルは『自伝』で、アリス(ラッセル『自伝』執筆時には既に故人)に感謝の念を述べている。