この頃私は,鍵付きの日記帳をつけており,誰にも見つからないように,非常に注意深く隠していた私は,この日記に,アリスについて祖母と語り合った内容や,祖母やアリスに対して抱いた私の感情を,記録した(注:recorded 単に’書いた’というよりも,この当時の気持ちや考え方を,後に正確に思い出すために,’記録した‘といったニュアンスか。)。その後間もなくして,(明らかに秘密にしておく目的で)一部’速記’で書いてある父の日記帳が私の手に入った。父の日記を読んで,父は,私がアリスにプロポーズしたのとちょうど同じ年齢の時に,母にプロポーズしたこと,祖母が私に言ったのとほぼ同じことを父に言ったことを,それから私が日記に記録したのと全く同じ感想や意見を父が日記に記録していたこと,を発見した。このことは,私は自分自身の人生を生きているのではなくて,父の人生をもう一度くり返して生きているのだという不思議な感情を私に与え,遺伝に対する迷信的な信念を生じさせがちであった。(注:上写真:ラッセルが生まれる1年前に撮影されたラッセルの両親/下写真:ギリシア文字で書いたラッセルに秘密の日記)
At this time I kept a locked diary, which I very carefully concealed from everyone. In this diary I recorded my conversations with my grandmother about Alys and my feelings in regard to them. Not long afterwards a diary of my father’s, written partly in shorthand (obviously for purposes of concealment), came into my hands. I found that he had proposed to my mother at just the same age at which I had proposed to Alys, that my grandmother had said almost exactly the same things to him as she had to me, and that he had recorded exactly the same reflections in his diary as I had recorded in mine. This gave me an uncanny feeling that I was not living my own life but my father’s over again, and tended to produce a superstitious belief in heredity.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 4: Engagement, 1967]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB14-130.HTM
[寸言]
早くして亡くなった両親に対するラッセルの思慕の情はとても強かったと思われる。祖父母はラッセルのことを愛していたとしても、やはり実の両親のように甘えることはできない。そのラッセルの父親が同じ年令の時にラッセルと同じことを考え・感じていたこと父の日記を読んで知り、自分は父親の人生を代わりに生きているような錯覚にとらわれる。祖母は息子(ラッセルの父親)に対しラッセルに対してとまったく同じことを言っていたのである。