大学4年のとき私は、多数の数理哲学の本とともに大部分の偉大な哲学者の著書を読んだ。ジェームズ・ウォード(James Ward, 1843-1925)は、数理哲学の新しい本をいつも私に貸してくれた。そうして、それらの本を彼に返却するとき、私はいつも大変ひどい本でしたと言った。彼のその時の落胆ぶりや、私が満足しそうな本を見つけるために骨身を惜しまずに努力している姿を、私は覚えている。そしてついに、私が特別研究員になった後のことであるが、私は彼から2冊の小さな本 --彼自身は、それらの本を読んでいなかったし、またそれほど価値ある本とも思っていなかった-- をもらった。その2冊とは、ゲオルク・カントール(Georg Cantor,1845-1918)の「超限集合理論(Mannichfaltigkeitslehre,1883)」とフレーゲ(Gottlob Frege,1848-1925)の『概念記法(Begriffsschrift,1879)』であった。この2冊の本は、私が求めていた要点をついに与えてくれた。しかしフレーゲの本の場合は、そこに書かれている内容をずっと理解できないまま、何年も所有していた。事実、私は、その本に含まれている内容の大部分を、自力で発見するまでは、フレーゲのその本に書かれている意味内容を理解できなかった。
During my fourth year I read most of the great philosophers as well as masses of books on the philosophy of mathematics. James Ward was always giving me fresh books on this subject, and each time I returned them, saying that they were very bad books. I remember his disappointment, and his painstaking endeavours to find some book that would satisfy me. In the end, but after I had become a Fellow, I got from him two small books, neither of which he had read or supposed of any value. They were Georg Cantor’s Mannichfaltigkeitslehre, and Frege’s Begriffsschrift. These two books at last gave me the gist of what I wanted, but in the case of Frege I possessed the book for years before I could make out what it meant. Indeed, I did not understand it until I had myself independently discovered most of what it contained.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.1, chap. 3:Cambridge, 1967]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB13-230.HTM
[寸言]
フレーゲ(Gottlob Frege,1848-1925)の『概念記法(Begriffsschrift,1879)』は、現在では記号論理学(数理哲学)草創期の画期的な著作として認められていますが、長い間学界で認められていませんでした。その意義を最初に発見したのはラッセルであり、ラッセルが評価して紹介したことによって、世界に知られていきました。
数理哲学の発展の歴史についての概要を知りたい方は,欧米でベストセラーとなったコミック本 Logicomix: an Epic Search for Truth, 2009 (数理哲学の歴史を漫画で描いたもので,日本でも昨年7月に『ロジ・コミックス-ラッセルとめぐる論理哲学入門』(筑摩書房)として邦訳出版)がおすすめです。