ラッセル『権力-その歴史と心理』第7章 革命的な権力 n.17

(三) フランス市民革命とナショナリズム(続き)

 個人主義は,論理的にも歴史的にもプロテスタンティズム(清教徒主義)と関係をもっていることは明らかであり,プロテスタンティズム(清教徒主義)は,権力を握るとしばしば自らの教義(説)を放棄したが,神学的領域においてはそれらの教義を主張した。個人主義は,プロテスタンティズム(清教徒主義)を通して,初期キリスト教とつながり,同時に,(初期キリスト教の)非キリスト教国家に対する敵意ともつながっている。個人主義は,また,個人の魂に関心をもっていることから,キリスト教といっそう深いつながりがある。キリスト教倫理によれば,いかなる国家的必要性も(必要性があったとしても),当局(authorities 官憲)が人に罪深い行為を強いることは正当化できない。カトリック教会は,結婚の当事者のどちらかが強制下にある場合には,その結婚は無効であると考えている(holds 考えを抱いている。迫害においても,この説(教義)は,なお(still あいかわらず)個人主義的(なもの)である。(即ち)(異教徒)迫害の目的は,個々の異端者を変説(異教信仰撤回)させたり懺悔させたりするためであり,社会に利益を及ぼすためではない(のである)。各々の人間はそれぞれが一つの目的であるというカントの原理は,キリスト教の教えに由来している。カトリック教会においては,教会が権力を握った期間が長かったために,初期キリスト教の個人主義をいくらか曖昧なものにしてしまった。しかし,新教(プロテスタント)は,特にその極端なほうの形態では,この個人主議を復活させ,これを政治理論(統治理論)に適用した。

Chapter VII: Revolutionary Power, n.17

III. The French Revolution and Nationalism.(continued)

Individualism has obvious logical and historical relations to Protestantism, which asserted its doctrines in the theological sphere, although it often abandoned them when it acquired power. Through Protestantism, there is a connection with early Christianity, and with its hostility to the pagan State. There is also a deeper connection with Christianity, owing to its concern with the individual soul. According to Christian ethics, no State necessity can justify the authorities in compelling a man to perform a sinful action. The Church holds that a marriage is null if either party is subject to compulsion. Even in persecution the theory is still individualistic: the purpose is to lead the individual heretic to recantation and repentance, rather than to effect a benefit to the community. Kant’s principle, that each man is an end in himself, is derived from Christian teaching. In the Catholic Church, a long career of power had somewhat obscured the individualism of early Christianity; but Protestantism, especially in its more extreme forms, revived it, and applied it to the theory of government.
 出典: Power, 1938.
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