ラッセル『権力-その歴史と心理』第8章 経済的な権力 n.19

 第二に生じる疑問は,資本家たちが,実際に,(労働者に対する)支配権を最高度に利用するだろうか(労働者を極限まで搾取するだろうか),という疑問である。資本家が用心深い場合には,彼らはマルクスがまさに予見したような結果を恐れてそうはしない。もし資本家が労働者にも繁栄の分前(取り分)をいくらか与えるならば,労働者が革命的になるのを防げるかも知れない(可能性がある)。これのもっとも著しい例は,アメリカ合衆国における例であり,合衆国では熟練労働者は全体として保守派(Conservative 大文字だから「保守党員」?)である

 プロレタリアート(無産階級)が多数派である(国民の過半数を占める)という仮定は非常に疑わしい。小百姓が支配的である(優勢である)農業国においては,このことは明らかに事実ではない(注:peasant を「小作農」と訳すと,土地を地主に借りて農業をやっている小作人の意味になってしまう。ここでは,小さな農地をもっている農民のことを主として言っていると思われるので、「小百姓」あるいは「農民」と訳したほうがよいであろう。)。それに多量の安定した富がある国々においては,経済的見地から見るとプロレタリアート(無産階級)である多くの人たちも,政治上は,金持の側にいる。なぜなら,彼らの雇用は贅沢品に対する需要に依存しているからである。従って,階級闘争がたとえ起こるとしても(if = even if),プロレタリアート(無産階級)が勝利することは決して確実ではない。

Chapter VIII: Economic Power, n.19

The second question that arises is : Will capitalists, in fact, exploit their control to the uttermost? Where they are prudent, they do not do so, for fear of just such consequences as Marx foresaw. If they allow the workers some share in prosperity they may prevent them from becoming revolutionary ; of this the most notable example is in the United States, where the skilled workers are on the whole Conservative.

The assumption that the proletariat are the majority is very questionable. It is definitely untrue in agricultural countries where peasant proprietorship prevails. And in countries where there is much settled wealth, many men who, from an economic point of view, are proletarians, are politically on the side of the rich, because their employment depends upon the demand for luxuries. A class-war, if it occurs, is therefore by no means certain to be won by the proletariat.
 出典: Power, 1938.
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