ラッセル『権力-その歴史と心理』第8章 経済力(経済的な権力) n1

 経済力(経済的権力)は,軍事力(軍事的権力)の場合と違って,主要なもの(第一義的なもの)ではなく,派生的なもの(権力)である。一国家内においては,経済力は,法律に依存している。国際的な商取引においては(注:international dealings 東宮氏は「国際間の交渉」と誤訳),経済力が法律に依存するのは小さな問題についてのみであり,大きな問題に巻き込まれた場合には,経済力は戦争あるいは戦争の脅威に依存する(ことになる)。経済力を,何の分析もしないでそのまま受け入れるのが慣例になってきたが,このことは,現代において,歴史を因果的に解釈する場合,戦争や(政治的)宜伝カと対立したものとして,経済の不当な強調へと導いてきた。
 労働(自体)のもつ経済力は別として,他のすべての経済力は,どこまでも分析してゆくと,誰が一定の土地に立ってそこにものを持ち込み,そこからものを取り出して良いかということを,必要とあれば武力(軍事力)を用いてでも,決定することのできることにある。(注:消費財の生産・売買に関する限りの話。現代においては,土地を所有しなくても,サイバー空間でソフトウェアという「もの」をつくったり,それらを売買することによって,経済力を持つことができるようになっており,事情が異なってきている。) このことは,若干の事例においては,明らかである。南ペルシャの石油が,英国ペルシア石油株式会社(注:Anglo Persian Oil Company/現在のBP:British Petroleum(英国石油))の所有物になっているのは,英国政府が,同会社以外のいかなるものもこれに近づいてはならないと,法令で布告したからであり,英国政府は,今日まで,その意志を強いるに十分なほど力が強いままであったからである。(つまり)仮に,大英帝国が重大な戦争で敗北すれば,(油田の)所有権は多分変わるであろう。(南アフリカの)ローデシアの金鉱が若干の金持のものとなっているのは,英国の民主政治(British democracy 民主政体)がこれらの金持をローベングラとの戦い(注:Lobengula は,マタベレランドに勢力を持つンデベレ族の王)に行かせることによって裕福にさせることはやってみるだけの価値があると考えたからである(詳細は,ローデシアの歴史を参照 https://www.kaho.biz/rhodesia/a.html)。アメリカ合衆国の石油が若干の会社の所有物になっているのも,これらの会社が石油に対する法律上の権利をもっているからであり,米国の軍事力(軍隊)がこの法律を強制するために控えているからである。もともとこの石油地帯はアメリカインディアンに属していたが,インディアンに法律上の権利がないのは,彼らが(米国へやってきた移民との)戦争に敗けたからである。ロレーヌの鉄鉱石が,最近の戦いで勝利することによって,フランスあるいはドイツの独仏いずれかの所有物となる(なっている)。その他,いろいろ。

Chapter VIII: Economic Power, n.1

Economic power, unlike military power, is not primary, but derivative. Within one State, it depends on law; in international dealings it is only on minor issues that it depends on law, but when large issues are involved it depends upon war or the threat of war. It has been customary to accept economic power without analysis, and this has led, in modern times, to an undue emphasis upon economics, as opposed to war and propaganda, in the causal interpretation of history.
Apart from the economic power of labour, all other economic power, in its ultimate analysis, consists in being able to decide, by the use of armed force if necessary, who shall be allowed to stand upon a given piece of land and to put things into it and take things from it. In some cases this is obvious. The oil of Southern Persia belongs to the Anglo Persian Oil Company, because the British Government has decreed that no one else shall have access to it, and has hitherto been strong enough to enforce its will; but if Great Britain were defeated in a serious war, the ownership would probably change. Rhodesian goldfields belong to certain rich men because the British democracy thought it worth while to make these men rich by going to war with Lobengula. The oil of the United States belongs to certain companies because they have a legal title to it, and the armed forces of the United States are prepared to enforce the law; the Indians, to whom the oil regions originally belonged, have no legal title, because they were defeated in war. The iron ore of Lorraine belongs to the citizens of France or Germany according to which has been victor in the most recent war between those two countries. And so on.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER08_010.HTM