ラッセル(作)「形而上学者の悪夢」 The Metaphysician’s Nightmare

TP-NOEP私(バンブロウスキー)はおべっか使いの形而上学者達と議論を始めました。

‘あなたがた(注:おべっか使いの形而上学者)の言っていることは馬鹿げている’,と私はいさめました。’あなたがたは無の存在こそが唯一の実在だと言う,あなたがたが崇拝している,このブラック・ホール(注:black hole 宇宙論に言うブラックホールではないことに注意))は存在しているとあなたがたは偽って言う。あなたがたは,非存在(存在しないもの)が存在するということを私(バンブロウスキー)に説得しようとしている。だがこれは矛盾だ。それに‘地獄の炎’がどんなに熱くなろうとも,私は矛盾を容認するほど,論理学上の存在を堕落させるようなことは決してしません。’
ここでおべっか使いの代表が議論にわってはいってきました。`あなた(バンブロウスキー)はせっかち過ぎる`,と彼は言いました。’あなたは非存在が存在することを否定するのですか?’ だが,あなたが存在を否定しようとするものは何ですか。もし非存在であるとするならば,それについての如何なる陳述も無意味となります。従って,非存在が存在しないというあなたの陳述も無意味ということです。あなたが文章の論理的分析(注:「ラッセルが非難したオックスフォードの日常言語学派が行った意味での」論理分析/ラッセルが行った論理分析でないことに注意)に余りにも少ししか注意を払わなかったのではないかと思います。この事は,あなたが子供の時に教えられているべきことでした。あなたは全ての文には主語があり,もし主語が無だとしたら,文は無意味となることは,ご存じではありませんか。そういうわけで,あなたが高潔なる熱情をもって悪魔-非存在なるもの-が存在しないと宣言するなら,明らかに矛盾したことを言っています(自己矛盾していることになります。)。
私(バンブロウスキー)は答えた。’あなたは,疑いもなく,地獄に来てからしばらく経っていて,やや古風な学説を受け入れ続けています。あなたは文章には主語があるなどむだ口をたたいていますが,そういった話は時代遅れです。私が非存在である悪魔は存在しないという時,私は,悪魔や非存在そのものについて言っているのではなく,ただ「悪魔(サタン)」という語,「非存在」という語に言及します。あなたの誤謬は,私に偉大なる真実を明らかにしてくれました。その偉大なる真実とは,「~でない(否)」という語は必要ないということです。今後私は「~でない(否)」という語は使わないことにします。’

I began to argue with the metaphysical sycophants:
‘What you say is absurd,’ I expostulated. ‘You proclaim that non-existence is the only reality. You pretend that this black hole which you worship exists. You are trying to persuade me that the non-existent exists. But this is a contradiction: and, however hot the flames of Hell may become, I will never so degrade my logical being as to accept a contradiction.’
At this point the President of the sycophants took up the argument: ‘You go too fast, my friend,’ he said. ‘You deny that the non-existent exists? But what is this to which you deny existence? If the non-existent is nothing, any statement about it is nonsense. And so is your statement that it does not exist. I am afraid you have paid too little attention to the logical analysis of sentences, which ought to have been taught you when you were a boy. Do you not know that every sentence has a subject, and that, if the subject were nothing, the sentence would be nonsense? So, when you proclaim, with virtuous heat, that Satan – Who is the non-existent- does not exist, you are plainly contradicting yourself.’
‘You,’ I replied, ‘have no doubt been here for some time and continue to embrace somewhat antiquated doctrines. You prate of sentences having subjects, but all that sort of talk is out of date. When I say that Satan, Who is the non-existent, does not exist, I mention neither Satan nor the non-existent, but only the word ‘Satan’ and the word ‘non-existent.’ Your fallacies have revealed to me a great truth. The great truth is that the word ‘not’ is superfluous. Henceforth I will not use the word ‘not.”
出典: Nightmares of Eminent Persons, 1945, Introduction.
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