(第二次世界大戦中の1944年6月に英国に帰国し)英国人のあまり熱狂的(狂信的)でない態度は,私自身の熱狂性(熱狂度)を減じ,そして母国にいるんだという感情にひたり,喜んだ。この感情は -悪人として扱われ,青年たちに対し制限された接触しか許されないという状況から変わって - 1940年代の終わりにBBC(英国放送協会)に招かれて最初のリース記念講義を行った時にさらに高まった(写真はマイクに向かってBBC-Radio 4 のラジオ放送で講義中のラッセル)。私は,かつて以上に,自由な議論の雰囲気を賛美し,これが講議の主題を選択することに影響を与え,私は主題を「権威(権力)と個人」(Authority and the Individual)とした。それらの講義は,1949年,『権威と個人』という書名(講義名と同一)で出版された。そして,産業主義の増大に伴って起こって来る個人の自由の減少という問題を非常に幅広く取り扱ったものであった。しかしながら,こうした危険が認められていながらも,当時もそれ以後も,産業主義がもたらす悪を減じようとする努力はほとんどなされなかった。
The less fanatical attitude of English people diminished my own fanaticism, and I rejoiced in the feeling of home. This feeling was enhanced at the end of the forties when I was invited by the BBC to give the first course of Reith lectures, instead of being treated as a malefactor and allowed only limited access to the young. I admired more than ever the atmosphere of free discussion, and this influenced my choice of subject for the lectures, which was ‘Authority and the Individual‘. They were published in 1949 under that title and were concerned very largely with the lessening of individual freedom which tends to accompany increase of industrialism. But, although this danger was acknowledged, very little was done either then or since to diminish the evils that it was bringing.
出典: The Autobiography of Bertrand Russell, v.3 chap. 1: Return to England, 1969]
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/AB31-100.HTM
[寸言]
英国に帰国したラッセルは、第二次世界大戦後、BBC(英国放送協会)を通じて多くの講義や講演をおこなったが、リース記念講義(全6回の連続講義)もその一つで、初年度のスピーカーであった。
時代が進むにつれて、あらゆる面で組織化が進んでいく。いかなる組織であっても、大きな組織になればなるほど、個人の自由は制限されていく運命にある。大組織病を克服するために様々な工夫が試みられても、いつの間にか組織としてのまとまり(結束)が優先されて、個人の自由が制限されがちとなる。
国家や社会や企業や官庁その他、組織には結束が必要であるが、その中で個人の自由を可能な限り確保したい。ラッセルは、権力と個人との間にある様々な問題について議論し、人間の自由を最大限確保するためにはどうすればよいか自分の考えを提示する。なお、全6回のテーマは次の通り。
(次のページで全て視聴できます。YouTube 上にアップロードされています。)
http://russell-j.com/cool/YouTube-BR.htm
・第1回(Social Cohesion and Human Nature:社会的結合(結集)と人間性)
・第2回(Social Cohesion and Government:社会的結合(結集)と統治)
・第3回(The Role of Individuality:個性の役割)
・第4回(The Conflict of Technique and Human Nature:技術と人間性との闘争)
・第5回(Control and Initiative; their respective spheres:統制と(個人の)創意-各々の領域)
・第6回(Individual and Social Echics:個人倫理と社会倫理)