ラッセル『結婚論』第二章「母系社会」n.6:父親の子供に対する愛情

第二章 母系社会 n.6

 マリノスキーは次のように主張しているが,それはまったく正しいと(正しいに違いない)と私は考える。即ち,彼によれば,男は,妻の妊娠と出産の期間中ずっと妻と一緒に居続ければ,子供が生まれた時,その子どもを愛するようになる本能「的」な傾向があり,これは父親としての感情の基礎をなすものである。マリノフスキーは次のように言う。「人間の父性は,最初は,生物学的な基礎をほとんど完全に欠いているように見えるが,(実は)天賦の資質と生物的としての基本的な要求とに深く根ざしていることを示すことができる。」けれども,マリノウスキーは,男が妻の妊娠期間中ずっと妻から離れていると,初めのうちは子供に対して本能的な愛情は感じないだろうと考えるが,それでも,慣習と部族の倫理(道徳)に従って,男が母親や子供とつきあうようになれば,母親のそばにずっといた場合のように,徐々に(彼らに対する)愛情が発達するであろう,と(も)考える。あらゆる重要な人間関係において,社会的に望ましい行為は,それに向かう本能は必ずしも常に人を強いるほど強いものではないため,社会倫理(道徳)によって強要されるのであり,それはこれらの未開人の間でも変わらない。慣習は,子供が幼い間は母親の夫が子供の世話をし,保護するように命じるが,この慣習を強要するのは難しいことではない。概ね,本能と一致しているからである。

Chapter II Matrilineal Societies,n.6

Malinowski maintains, and in this I think he must be right, that if a man remains with his wife during pregnancy and child-birth he has an instinctive tendency to be fond of the child when it is born, and that this is the basis of the paternal sentiment. “Human paternity,” he says, “which appears at first as almost completely lacking in biological foundation, can be shown to be deeply rooted in natural endowment and organic need.” He thinks, however, that if a man is absent from his wife during pregnancy he will not instinctively feel affection for the child at first, although, if custom and tribal ethics lead him to associate with the mother and child, affection will develop as it would have done if he had been with the mother throughout. In all the important human relations, socially desirable acts, towards which there is an instinct not strong enough to be always compelling, are enforced by social ethics, and so it is among these savages. Custom enjoins that the mother’s husband shall care for the children and protect them while they are young, and this custom is not difficult to enforce, since it is, as a rule, in line with instinct.
出典: Marriage and Morals, 1929.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM02-060.HTM

<寸言>
野獣においては、自分の子孫を残すために他のオスから生まれたコドモを殺してしまう動物が少なくない。人間世界においても、再婚相手(あるいは同棲相手)の男が前の夫の子供を殺害してしまうニュースがけっこう報道される。もちろん、他の男との間に生まれた子供であっても、愛する女性の子供であればかわいがる/大切にする男も少なくないが、どうもその反対の感情を持つ者の方が多そう。

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