「魔女狩り」はどの国でも,いつの時代にも - 最高権力者に睨まれたら大変

 確かに,アメリカにはこれまで持ちこたえることができたほどの(抵抗し続けることができたほどの)強力な教育機関がいくつかある。けれども,これは非常な威信を持ち,自らの機関の方針を遂行する任にあたる勇敢な人たちがいる機関にのみ可能なことである。例えば,マッカーシー上院議員が,ハーバード大学について言ったことを考えてみよう。彼は「共産主義者である教授たちによって教化される道が開かれているハーバード大学へ子供をやる(通学させる)親を私は想像することはできない(そんな親がいるなどと想像できない)」と発言した。彼は,ハーバードには,「息子や娘たちをそこへやる親たちが知っておくべき悪臭を放つ嘔吐物」があると言った。ハーバードほど優れていない機関では,(国会議員による)このような攻撃の矢面に立つことはほとんど不可能であった。(注:戦時中の日本では,東大でさえも・・・)

 けれども,警察権力マッカーシー上院議員よりも,もっとずっと重大であり,もっと普遍的な現象である(注:マッカーシー上院議員は一人しかいなかったが,警察は世界中にあるため)。もちろん, 警察の権力は,鉄のカーテンの両側(注:東側及び西側の両方)に存在する不安の雰囲気によって,はるかに増大している。あなたがロシアに住んでいて,共産主義に同情的でなくなれば,家族の内においてさえ沈黙を守らなければ災難にあうことであろう。アメリカでは,あなたがかつて共産主義者であって(あったが)今はそうでないとしても(if = even if),やはり,諸君が偽証に陥れられなかったとしたら,法的ではないが,経済的かつ社会的な罰を受けやすいだろう。そのような処罰を逃れる方法はただ一つだけある。それは自分を司法省へ情報通報者として売ることである。その場合,あなたの成功は,どれほど大げさな話(tall story)を FBI(米国連邦捜査局)に信じさせることができるかにかかっているだろう。

There are, it is true, some educational institutions in America which, so far, have been strong enough to hold out. This, however, is only possible for an institution which has great prestige and has brave men in charge of its policy. Consider, for example, what Senator McCarthy has said about Harvard. He said he “couldn’t conceive of anyone sending children to Harvard University where they would be open to indoctrination by Communist professors.” At Harvard, he said, there is a “smelly mess which people sending sons and daughters there should know about.” Institutions less eminent than Harvard could hardly face such a blast.
The power of the police, however, is a more serious and a more universal phenomenon than Senator McCarthy. It is, of course, greatly increased by the atmosphere of fear which exists on both sides of the Iron Curtain. If you live in Russia and cease to be sympathetic with Communism, you will suffer unless you keep silence even in the bosom of your family. In America, if you have been a Communist and you cease to be, you are also liable to penalties, not legal unless you have been trapped into perjury but economic and social. There is only one thing that you can do to escape such penalties, and that is to sell yourself to the Department of Justice as an informer, when your success will depend upon what tall stories you can get the FBI to believe.
出典: Symptoms of Orwell’s 1984,(1954).
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/1070_SoO-060.HTM

<寸言>
警察権力や公安調査庁などは,本来,「政治的に中立」であるはずである。しかし,田中角栄(首相)は5億円の収賄の容疑で逮捕されたが,造船疑獄事件の時に,佐藤栄作(首相)は犬養法務大臣の指揮権発動により,逮捕を免れた。それどころか,日本の非核三原則のおかげでノーベル平和賞まで受賞した(しかし,実際は,非核三原則を無視し,有事における核持ち込みだけでなく,核兵器を積んだ米国の原子力空母の自由な寄港を密約で認めていたことも,後に明らかになった。そのこともあり,ノーベル平和賞選定委員会は,佐藤栄作への授与をもっとも後悔が残るものだとして,以後細心の注意を払っているとのことである。) つまり,原則的に,政治的中立的だとしても,人事権や予算権を握っている権力者に対しては弱く,政権の圧力を受けやすい。

総理大臣は表立って動く事はできないので,官房長官や法務大臣が動くことになる。内閣機密費も効果的に使われる。公安調査庁などは,野党の有力議員のスキャンダルもたくさんつかんでいることであろう。与党の有力議員や大臣などが窮地にたった時は,官房長官あるいは秘書官が公安調査庁の幹部に圧力をかけ,野党議員などのスキャンダル(極秘情報)を聞き出し,日頃目にかけている新聞(やイエロージャーナルや週刊誌)に直接あるいは第三者経由でその情報を渡し,新聞等に掲載させることによって,「中和」させ,政治家は皆お金に弱いと国民に思わせて,両成敗とさせてしまうことは,よくあると思われる。そうでない場合は,国民のアイドルやタレントのショッキングな事実を暴露させることによって国民の関心をそらすという手法がとられる。このようなことをバレずに行える政治家は,業師(できる人間)とされ,一目を置かれることになる。

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