私は,意志によって恐怖心をコントロールすることだけが唯一の真の勇気だとは思わないし,それが最上の勇気だとさえ思わない。近代の道徳教育の秘訣は,以前は自制と意志(の力)によって生み出された(または生み出そうと試みられた)結果を,良い習慣(を身につけること)によって生み出す点にある。意志(の力)による勇気は,種々の神経障害を引き起こすが,それについては「戦争神経症(砲弾ショック)」が多数の事例を与えている。抑圧された恐怖心が,内観によっては認識できないような仕方で,無理矢理に表面に出てきたのである。
I do not regard control of fear by the will as the only true courage, or even as the best form of courage. The secret of modern moral education is to produce results by means of good habits which were formerly produced (or attempted) by self-control and will-power. Courage due to the will produces nervous disorders, of which ” shell-shock ” afforded numerous instances. The fears which had been repressed forced their way to the surface in ways not recognizable to introspection.
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 4: Fear.
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/OE04-100.HTM
[寸言]
論理的思考能力が乏しくて相手を説得できる自信がない者は、権力(地位の差)によって相手を押さえつけ、相手が納得しないことでも強制してやらせようとする。その際には、相手に「意志力」を求めることが多い。
道徳教育によって、若者に、体制従属の保守的な考え方や愛国心を教え込もうとする為政者も「意志力」の重要性を強調する。