前に見たように,新生児(赤ん坊)は,習慣を(まだ)身につけておらず,反射作用と本能だけが備わっている。したがって,新生児の世界は「事物」から成り立っていないことになる。(事物を)認識できるためには,経験をくりかえすことが必要であり,「事物」の概念が生ずるためには,認識(すること)が必要である。小児用ベッドの感触,母親の乳房(または哺乳瓶)の感触と臭い,母親や乳母の話し声などが,すぐに親しいものに感じられるようになる。母親や小児用ベッドがはっきり見えるようになるのは,もう少しあとである。なぜなら,新生児は,ものの形をはっきりと見えるように目の焦点を合わせる方法を知らないからである。
The new-born infant, as we observed before, has no habits, but only reflexes and instincts. It follows that his world is not composed of ” objects “. Recurrent experiences are necessary for recognition, and recognition is necessary before the conception of an “object” can arise. The feel of the cot, the feel and smell of the mother’s breast (or the bottle), and the mother’s or nurse’s voice will soon come to feel familiar. The visual appearance of the mother or the cot comes somewhat later, because the new-born child does not know how to focus so as to see shapes distinctly.
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 3: the first years.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/OE03-050.HTM
[寸言]
多くの野生動物は、生まれるとすぐに立てるようになり,急速に成長し、子孫を残すことに成功すれば、間もなく死んでいってしまう。
これに対し、生命が高等化すればするほど大人になるのに時間がかかるようになる。特に、人間の場合は、子孫を産んでもすぐに亡くなることはなく、医療の発達もあいまって、長い「余生」を過ごすことになる。
新生児は(潜在能力はすばらしくても)肉体的に何と無力なことか!? 目の焦点の合わせ方も、食べ物の取り方も、あらゆるものを学習しなければならない。いや、そうだからこそ、人類の進歩に追いつくことができる、また、新しい行動様式を身につけることができるのであろう。
生まれたばかりの時、赤ん坊にとって、周囲は「混沌の世界」であり、意識によって外界を意味づけることによって、その子どもにとっての「秩序」が生まれ、外界に適応していくことができるようになる。
外界(自然界及び人間世界)に適応できている時は安定した精神状態にいられるが、不適応な状態になると「人間(性)崩壊」が生じる危険性が高まる。(適応できなくなった舛添知事の表情の変化はすさまじい。)