ラッセル『権力-その歴史と心理』第6章 むきだしの権力 n.28


 産業主義の揺藍期においては,支払われる賃金を調整する慣習はまったくなく,また,被雇用者も組織化されていなかった。その結果,雇傭者と被雇用者との関係は,国家の許す制限内(許容範囲)において,むきだしの権力の関係であった。それにまた初めのうちは,この許容範囲はとても広いものであった(つまり,雇用者の裁量範囲が大きかった)。正統派の経済学者たちは,未熟練労働(者)の貸金は,常に生存レベル(ぎりぎりの生活推持に必要な最低水準)に下落する傾向があるはずだ(注:must に違いない)と教えていた。だが,そうなるかどうかは,貸金労働者の政治的権力及び(労働者)団結の利益からの排除に依存しているということを,彼らは理解していなかった。マルクスは,この問題は(結局は)権力の問題であると見た(理解した)。しかし,私の考えでは,マルクスは政治的権力を経済的権力と比べて過小評価している。労働組合は,賃金労働者の交渉力をとても増加させたが,賃金労働者が政治的権力をまったく持っていなければ,彼らは抑圧可能となる(注:みすず書房版の東宮訳では bargaining power を「購買力」となっているが,ここでは賃金を決める場面での「交渉力」のこと)。1868年以降,英国の都市労働者が選挙権を持つという事実がなかったならば,(過去の)一連の法的判断は,英国の労働組合を損ねてきたことであろう。(注:1867年の選挙法改正によって,都市労働者まで選挙権が拡大された。因みに,ラッセルの祖父ジョン・ラッセルは,英国首相を2期務めたが,英国の選挙法改正に尽力した。)ひとたび労働組合組織が与えられるや,貸金はもはやむきだしの権力によって決定されるものではなくなり,日用品の売買のように,(団体)交渉によって決定されるものとなった。

Chapter VI: Naked Power, n.28

In the infancy of industrialism, there were no customs to regulate the wages that should be paid, and the employees were not yet organized. Consequently the relation of employer and employed was one of naked power, within the limits allowed by the State; and at first these limits were very wide. The orthodox economists had taught that the wages of unskilled labour must always tend to fall to subsistence level, but they had not realized that this depended upon the exclusion of wage-earners from political power and from the benefits of combination. Marx saw that the question was one of power, but I think he underestimated political as compared with economic power. Trade unions, which immeasurably increase the bargaining power of wage-earners, can be suppressed if wage-earners have no share in political power ; a series of legal decisions would have crippled them in England but for the fact that, from 1868 onward, urban working men had votes. Given trade union organization, wages are no longer determined by naked power, but by bargaining, as in the purchase and sale of commodities.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER06_280.HTM

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