ラッセル『結婚論』第十六章 離婚 n.7

第十六章 離婚 n.7:精神異常者を家庭に押し込めること

その結果,英国でそうであるように,精神異常が理由の離婚を許さない国ではどこでも,配偶者が精神異常になった夫や妻は,耐えがたい境遇に置かれることになる。(そうして)そういった境遇を擁護する議論(argument 論証)は,神学的迷信のほかは,まったく存在していない(のである)。しかも(また),精神異常にあてはまることは,性病や,常習的犯罪や,常習的大酒飲みにもあてはまる。これらすべては,いかなる観点から見ても,婚生活を破壊するものである。それらは(性病や常習的犯罪癖等は),夫婦の交わりを不可能にし,子供を生むことは望ましくないものにし,罪ある親との接触を避けるべきものとする。それゆえ,そのような場合には,離婚への反対は,軽率な者(不用心な者)が騙されて,悲しみを通して(人の心が)浄化される罠(神学的迷信)だという理由(根拠)しか存在しない(ことになる)(注:中世のキリスト教世界においては,聖職者のように情欲にまどわされない生活をすることが望ましいが,それができない俗人は,情欲に身を焦がすよりは結婚する方がよい,という考え方があったことを思い出すと、ラッセルがここで言っている意味がわかるのではないか)。

Chapter XVI: Divorce, n.7

It follows that in any country which refuses divorce for insanity, as England does, the man or woman whose wife or husband becomes insane is placed in an intolerable position, in favour of which there is no argument whatever except theological superstition. And what is true of insanity is true also of venereal disease, habitual crime, and habitual drunkenness. All these are things which destroy a marriage from every point of view. They make companionship impossible, procreation undesirable, and association of the guilty parent with the child a thing to be avoided. In such cases, therefore, divorce can only be opposed on the ground that marriage is a trap by which the unwary are tricked into purification through sorrow.
出典: Marriage and Morals, 1929.
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