ラッセル『結婚論』第八章 性知識に関するタブー, n.6

第八章 性知識に関するタブー, n.6:3世代くらい後でないと・・・

 これらの事実は,現在,ある程度まで,若い人たちを扱わなければいけない仕事をしているすべての知的な人たちに認識されている。けれども,本章の最初に引用した事例で明らかなように,法律や法律を執行する人たちにはまだ知られていない(法律に明文化されていない)。そうして,現状では,子供を扱う立場にあるすべての事情通(見聞の広い人)は,法律を破るか,あるいは,自分が預かっている(under his charge 世話をしている)子供たちに取り返しのつかない道徳的ならびに知的な損害を与えるか,のどちらかを選ぶことを強いられる。法律を変えることは,困難である。なぜなら,年配の人たちの大部分は,性は邪悪でありみだらなものだと信じないかぎり,性の喜びを得られないほど考えがゆがんでしまっているからである。残念ながら,現在,老年あるいは中年である人びとが(みな)死んでしまうまでは,法の改正などまったく望めないと思われる(注:あくまでも1929年の状況です)。

Chapter VIII: The Taboo on sex knowledge, n.6

To a certain extent these facts are now recognized by all intelligent people who have to deal with the young; they have, however, not yet become known to the law and those who administer it, as is evident from the case quoted at the beginning of this chapter. Thus the situation is at present that every well-informed person who has to deal with children is compelled to choose whether he will break the law or whether he will cause the children under his charge irreparable moral and intellectual damage. It is difficult to change the law, since most elderly men are so perverted that their pleasure in sex depends upon the belief that sex is wicked and nasty. I am afraid no reform can be hoped for until those who are now old or middle-aged have died.
出典: Marriage and Morals, 1929.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM08-080.HTM

<寸言>
「残念ながら,現在,老年あるいは中年である人びとが(みな)死んでしまうまでは,法の改正などまったく望めないと思われる」とのことでしたが,本書の出版(1929年)から約90年が経過し,ほぼ全員死んでしまいました。その結果・・・。