バートランド・ラッセル『私の哲学の発展』第10章 「ヴィトゲンシュタインの衝撃」 n.15

 上の二つの原理に関して私の到達した結論は次のようなものであった。(即ち)「(1)外延性の原理は、もしそれを厳格に解釈するならば、『 A が p を信ずる』というような文の分析によっては、偽であるとは示されない(証明されない)。(また)(2)同じ分析によって、原子性の原理が偽であることを証明されないが(←証明しないが)、それが真であることを証明するには十分でない。」(『意味と真偽の探求』p.273)  上の二つの原理に対するもっと普通な批評は、単純者(simples)や原子的事実(atomic facts)の存在を信ずべき理由がまったく存在しない、ということである。彼自身も後にはそう考えるようになったと私は思う。しかし、この問題を論議することは『論考』からあまりに離れすぎるてしまう。(そこで)後の章でこの問題を再びとりあげることにする。  ウィトゲンシュタインは論理学は全てトートロジー(同語反復)から成っていると主張する。私はこの点(主張)において彼は正しいと思うが、私はこの問題に関する彼の発言を読むまではそう考えてはいなかった。このことと関連している大変重大なもうびとつの要点がある。それは、全ての原子的命題は相互に独立しているということである。以前には、一つの事実が他の事実に論理的に依存することはありうると考えられるのが常であった(It used to be thought that 通常そう考えられていた)。しかしそれは、その諸事実(注:3つ以上の事実の場合もあるだろうが、ここでは2つの事実)の一つが実は(really)2つの事実を一緒にしたものである場合にのみ真である。(たとえば)「 A と B とは人間である」から「 A は人間である」が論理的に帰結するが、それはもともと「 A と B とは人間である」が二つの命題(訳注:「Aは人間である」という命題+「Bは人間である」という命題)を一緒にしたものであるからである。そして我々が今考えている(念頭にある)この原子性の原理からの帰結は、現実の世界において、真である原子的事実のいかなる選択も、論理的に示すことができる限りにおいて、原子的事実の全体でありうるということである。しかし、明らかなように、この点に関しては「原子性の原理」が不可欠であり、もしこの原理が真でないならば(偽ならば)、我々が知りうる最も単純な諸事実といえども、時には論理的に結びついていないと(いうことに)は確信がもてない(確実ではない)のである。

Chapter 10 The Impact of Wittgenstein, n.15
The conclusion that I reached in regard to both principles was as follows: ‘(l) that the principle of extensionality is not shown to be false, when strictly interpreted, by the analysis of such sentences as “A believes p”; (2) that this same analysis does not prove the principle of atomicity to be false, but does not suffice to prove it true’ (Inquiry, page 273). The more usual criticism of both Wittgenstein’s principles is that there is no reason to believe in simples or in atomic facts. I understand that he himself came to think so later on. But to discuss this question would take us too far from the Tractatus. I shall return to it in a later chapter. Wittgenstein maintains that logic consists wholly of tautologies. I think he is right in this, although I did not think so until I read what he had to say on the subject. There is another point connected with this which is very important, and that is that all atomic propositions are mutually independent. It used to be thought that one fact could be logically dependent upon another. This can only be the case if one of the facts is really two facts put together. From ‘A and B are men’ it follows logically that A is a man, but that is because ‘A and B are men’ is really two propositions put together. The consequence of the principle we are considering is that any selection of the atomic facts which are true in the actual world, might be the total of atomic facts so far as logic can show, but, as is obvious, the principle of atomicity is essential in this connection, and, if it is not true, we cannot be sure that the simplest obtainable facts may not be sometimes logically connected.
 Source: My Philosophical Development, chap. 10:1959.   
 More info.:https://russell-j.com/beginner/BR_MPD_10-150.HTM

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