バートランド・ラッセル『私の哲学の発展』第10章 「ヴィトゲンシュタインの衝撃」 n.9


ウィトゲンシュタインは言う。)「大雑把に言えば、2つのものについて、それらは同一であると言うことは無意味であり、一つの物について、それがそれ自身と同一であると言うことは、何も言わないことである」(『論考』5.5302 および 5.5303)。一時、私はこの批評を受けいれたが、間もなくこの批評は数学的論理学(記号論理学)を不可能にするものであり、かつ、事実、ウィトゲンシュタインの批評は正しくない(invalid 有効でない)という結論に達した。このことは、数えるということ(counting)を考察すれば特に明らかになる。もしa と b とがその全ての特性を共有しているならば、aのことを言うとき同時にbのことも言わざるをえないのであり、あるいは言い換えれば(or) aを数えるとき同時に b も数えざるをえないのであり、それは aを数えることと b を数えることとは別のことでなく、同一の数える行為である。だから、aとbとが二つのものであることを恐らく(conceivably 考えられるところでは)決して発見しえないであろう。ウィトゲンシュタインの立場は、異他性(diversity 多様性)を定義不可能な関係であることを仮定している。もっとも彼自身この仮定をしていることに気づいていたとは私は思わないが(although)。しかしもし彼がこの仮定をしていないとしたら、いかなる根拠によって彼が「二つの対象がその全ての特性を共通に持つ」という命題を(彼が言うように)有意味と主張できるのか理解できない(しかもかれは実際そうだと主張しているのである)。けれども、もし異他性(diversity)を認めると、其の場合には、a と b とが二つのものであるとすると、aは b が持っていない特性をもっている、即ち、「 b とは異なっている」(being diverse from b)という特性をもつ(ことになる)(訳注:従って、a と b とは全ての性質を共通に持っているわけではないことになる)。従って、同一性についてのウィトゲンシュタインの議論は誤まっている、と私は考える。そしてもしそうなら、彼の体系の大きな部分が正しくないことになる(invalidate 無効化する)。

Chapter 10 The Impact of Wittgenstein, n.9 ‘Roughly speaking: to say of two things that they are identical is nonsense, and to say of one thing that it is identical with itself is to say nothing’ [Tractatus, 5.5302 and 5.5303). At one time I accepted this criticism, but I soon came to the conclusion that it made mathematical logic impossible and, in fact, that Wittgenstein’s criticism is invalid. This appears especially if we consider counting: if a and b have all their properties in common, you can never mention a without mentioning b or count a without at the same time counting b, not as a separate item but in the same act of counting. You could, therefore, never conceivably discover that a and b were two. Wittgenstein’s position assumes that diversity is an indefinable relation, although I do not think that he knew he was making this assumption. But if he is not making it, I do not see on what grounds he can say, as he does, that it is significant to say that two objects have all their properties in common. If, however, diversity is admitted, then, if a and b are two, a has a property which b has not, namely, that of being diverse from b. I think, therefore, that Wittgenstein’s contention as to identity is mistaken. And, if so, it invalidates a large part of his system.
 Source: My Philosophical Development, chap. 10:1959.  
 More info.:https://russell-j.com/beginner/BR_MPD_10-090.HTM

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