バートランド・ラッセル『私の哲学の発展』第7章 「数学原理ーその哲学的側面」 n.14


 固有名と記述との間にあるもうひとつの重要な区別は、固有名はそれが名指す(名づける)何ものかが存在しなければ、一つの命題において有意義なものたりえない(意味を持たない)のに対し、記述はそういう制限にしばられないということである。マイノング(Alexius Meinong Ritter von Handschuchsheim、1853-1920) - 私はマイノングの仕事(研究)にとても敬意を抱いていたが - この区別に気づくことができなかった。「黄金の山」といったものは(現実には)存在しないけれども、「黄金の山」を論理的主語とする命題(statesment)をつくることができる、と彼は指摘した(訳注:いかなる文もつくることはできるが、ここでは真偽を決めることができる命題のことを言っている)。(そうして)彼は、我々が「黄金の山は存在しない」、と言うとき、我々が存在しないと言っている何ものかが、すなわち、「黄金の山」が、やはり何らかの意味で、存在することは明らかである、と論じた。従って、「黄金の山」は、何か影のような、プラトン的存在界に存立(subsist)しているのでなければならない。というのは、もしそうでないとすると、「黄金の山は存在しない」という我々の陳述は何の意味をももたなくなるであろうからである、とマイノングは論じたのである。実を言うと私も、記述理論に気づくまでは、このマイノングの議論(論拠)は説得力がある(convincing)と思っていた。記述理論の要点は、「黄金の山」は文法的には有意義な命題の主語でありうるにしても、そういう命題を正しく分析すれば、それはもはやそのような主語をもたない(ものになる)ということである。「黄金の山は存在しない」という命題は、(正確に分析すると/正しく分析すると)「『xは『黄金で出来ており、かつ山である』という命題関数は x のあらゆる値に対して偽である」となる。また、「スコットはウェイヴァリーの著者である」は、(正しく分析すると)「xのあらゆる値に対して、『xはウェイヴァリーを書いた』は、『xスコットである』と等値である」となる。ここには、「ウェイバリーの著者」といい句はもはや現われていない。

Chapter 7: Principia Mathematica: Philosophical Aspects, n.14 Another important distinction between names and descriptions is that a name cannot occur significantly in a proposition unless there is something that it names, whereas a description is not subject to this limitation. Meinong, for whose work I had had a great respect, had failed to note this difference. He pointed out that one can make statements in which the logical subject is ‘the golden mountain’ although no golden mountain exists. He argued, if you say that the golden mountain does not exist, it is obvious that there is something that you are saying does not exist – namely, the golden mountain; therefore the golden mountain must subsist in some shadowy Platonic world of being, for otherwise your statement that the golden mountain does not exist would have no meaning. I confess that, until I hit upon the theory of descriptions, this argument seemed to me convincing. The essential point of the theory was that, although ‘the golden mountain’ may be grammatically the subject of a significant proposition, such a proposition when rightly analysed no longer has such a subject. The proposition ‘the golden mountain does not exist’ becomes ‘the propositional function “x is golden and a mountain” is false for all values of x.’ The statement ‘Scott is the author of Waverley’ becomes ‘for all values of x, “x wrote Waverley” is equivalent to “x is Scott”.’ Here, the phrase ‘the author of Waverley” no longer occurs.
 Source: My Philosophical Development, chap. 7:1959.  
 More info.:https://russell-j.com/beginner/BR_MPD_07-140.HTM

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