ラッセル『宗教と科学』第8章 宇宙の目的 n.19

 多種多様な難点(困難)があるため、発現的進化の哲学(訳注:ベルグソンでは「創造的進化」)は不十分なもの(不満足なもの)になっている。恐らく、その難点のなかの主なものは、決定論から逃れるために,予言は不可能だとしながら、この理論の信奉者たちが将来神が存在するようになることを予言していることであろう。彼ら(発現進化説の信奉者たち)はまさにベルグソンのいう貝の立場にいる(shellfish;shell-fish 甲殻類)。(即ち)貝は、見るということが何であるかを理解していないけれども見ることを欲している(注:貝は目的をもっていないが創造的に進化したいという志向性は持っている,といったところか)。アレキサンダー教授は「神秘的な力を持った(numinous)」と称するある種の経験において我々(人間)は「神性」にぼんやりと気づく(目覚める)と主張する。(また)「そのような経験を特徴づける感情は「我々を恐れさせたり,無力さを支援したりするものについての神秘感であるが、いずれにせよ,それは感覚や内省(reflection)によって知るもの以上のものである」と彼は言う。(訳注:荒地出版社刊の津田訳はこの一文を誤訳している。即ち「the sense of mystery, of something which」の「of something which」は「the sense of mystery」に掛かっていることに見落としている。)彼はこのような感情に重要性を付与する理由をまったく与えていないし(あげてないし),あるいは(また),彼の理論の当然の帰結として、精神的発展がそのような感情を人生においてより大きな要素にする理由もまったく与えていない。人類学者から(は)その正反対(の主張)を推論するであろう(結論を引き出すであろう)。友好的あるいは敵対的な非人間的な力についての神秘感は、文明人の生活におけるよりも未開人(野蛮人)の生活においてずっと大きな役割を演じている。(訳注:この一文も同様の誤訳をしている。)実際,もし宗教がこのような感情と同一視されるべきであるなら、既知の人類の発展における全ての歩みは,宗教の減退を伴ってきたのである(have involved 伴ってきた,巻き込んできた)。このことは、発現的神性(神性が将来現われて来ること)を擁護するために仮定された(想定された)進化論的議論とはほとんど適合しない(fit in with ~に適合する、~にうまく溶け込む)。

Chapter 8:Cosmic Purpose , n.19
Various difficulties make the philosophy of emergent evolution unsatisfactory. Perhaps the chief of these is that, in order to escape from determinism, prediction is made impossible, and yet the adherents of this theory predict the future existence of God. They are exactly in the position of Bergson’s shell-fish, which wants to see although it does not know what seeing is. Professor Alexander maintains that we have a vague awareness of “deity” in some experiences, which he describes as “numinous.” The feeling which characterizes such experiences is, he says, “the sense of mystery, of something which may terrify us or may support us in our helplessness, but at any rate which is other than anything we know by our senses or our reflection.” He gives no reason for attaching importance to this feeling, or for supposing that, as his theory demands, mental development makes it become a larger element in life. From anthropologists one would infer the exact opposite. The sense of mystery, of a friendly or hostile non-human force, plays a far greater part in the life of savages than in that of civilized men. Indeed, if religion is to be identified with this feeling, every step in known human development has involved a diminution of religion. This hardly fits in with the supposed evolutionary argument for an emergent Deity.
 出典:Religion and Science, 1935, chapt. 8: Cosmic Purpose  
 情報源:https://russell-j.com/beginner/RS1935_08-190.HTM

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