植物や動物が,系統(descent 出自)や変異(variation)によって段階的に進化したのだという,主として地質学から生物学に受け継がれた学説(doctrine)は,三つの部分に分けられるだろう。 (参考:浅原正和「Variation の訳語として「変異」が使えなくなるかもしれない問題について」:・・・中でも,進化学や生物多様性分野における最重要用語の一つである「variation」はこれまで「変異」と訳されてきたが,これを「(1)多様性,(2)変動」と訳すように変更し,「変異」は「mutation」の訳語として用いるように変更するという.しかし,歴史を紐解けば,variation の訳語としての「変異」は遺伝学そのものが誕生する以前から使われてきた.また,「変異」という用語は多くの派生語があり,現在も哺乳類学を含む,遺伝学以外の様々な自然史分野で広く使われている.このように広い分野で継続して使われてきた「変異」という日本語の意味する対象が突然 variation から mutation に変更されてしまうと,これまで蓄積されてきた日本語文献について誤読が生じかねない。) 第一に,生命のより単純な形態のものはより古く(古い時代からあるものであり),より複雑な構造を持つ生命の形態は(生命形態の/生命誌の)記録のより後の段階において初めて現われたという事実であり,それは,古い時代の一つの事実が確実であると期待できるのと同じほど確実なものである。第二に,より後の(時代の)より高度な有機体(生命体)は自然に発生したものではなく,幾度かの変様を受けて初期の形態から成長したものであるという理論であり,これは,生物学において,特に「進化」という言葉で呼ばれているものである。第三に,まだとても完全なものとは言えないが,進化のメカニズム,即ち,変異や適者生存の原因に関する研究である。進化の一般的学説は,進化のメカニズムに関してはなお疑問があるが,今日では,生物学者たちの間で広く一般に受け容れられている。ダーウインが歴史的に重要であるのは,彼が進化をより蓋然的である(probable もっともらしい,ありそうである)と思わせるメカニズム-(つまり)自然淘汰-を提案した点にある。しかし,彼の提案は,今日でも妥当なものとして受け入れられている一方,彼の直接の後継者たちに対するほど,今日の科学者を完全に満足させていない。
Chapter 3: Evolution, n.17
The doctrine of the gradual evolution of plants and animals by descent and variation, which came into biology largely through geology, may be divided into three parts. There is first the fact, as certain as a fact about remote ages can hope to be, that the simpler forms of life are the older, and that those with a more complicated structure make their first appearance at a later stage of the record. Second, there is the theory that the later and more highly organized forms did not arise spontaneously, but grew out of the earlier forms through a series of modifications ; this is what is specially meant by “evolution ” in biology. Third, there is the study, as yet far from complete, of the mechanism of evolution, i.e., of the causes of variation and of the survival of certain types at the expense of others. The general doctrine of evolution is now universally accepted among biologists, though there are still doubts as to its mechanism. The chief historical importance of Darwin lies in his having suggested a mechanism — natural selection — which made evolution seem more probable ; but his suggestion, while still accepted as valid, is less completely satisfying to modern men of science than it was to his immediate successors.
出典:Religion and Science, 1935, chapt. 3: Evolution.
情報源:https://russell-j.com/beginner/RS1935_03-170.HTM