狂信主義が一時的であっても成功をもたらした事例よりも,災難しかもたらさなかった事例のほうがはるかに多い。たとえ,つかのまにもせよ一応の成功をもたらした場合にくらぺて,その数ははるかに多い。狂信主義は,ティトゥス(注:ローマの皇帝ティトゥス・フラウィウス・ウェスパシアヌス。在位中にベスビオ火山が噴火し、ポンペイが壊滅したほか、ローマが3日間延焼し続ける火事が起こった。)の時代にエルサレムを滅ぼし,また,1453年にコンスタンチノープルを滅ぼした(注:1453年5月29日、オスマン帝国のメフメト2世によって東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル(=現在のイスタンブール)が陥落)。コンスタンチノープルが滅ぼされた時には,西方(西ヨーロッパ)は,(キリスト教の)東方教会と西方教会との間のごくささいな教義上の違いのために拒絶されたのである。(また)狂信主義は,スペインの衰退をもたらし,それは,当初は(スペインからの)ユダヤ人とムーア人の駆逐を通して、その後はオランダの叛逆や宗教戦争(注:16~17世紀のヨーロッパで展開されたキリスト教新旧両派の戦争)の長期にわたる疲弊(ひへい)を引き起こすことによって,(スペインの衰退は)もたらされたのである。これとは逆に,近代を通じて最も成功をおさめたのは,異端者の迫害にふけることの最も少なかった諸国家であった。
それにもかかわらず,現在,原理・原則(教義)上の統一(性)は国力(の維持・増強)において必須であるという信条(信念)が広範に行き渡っている。この見解は,ドイツとロシアにおいてきわめて厳格に保持され、かつ、それに基づいて行動がなされており,その厳しさの程度は少し落ちるが,イタリアと日本においても,同様の状況である。フランスと大英帝国においてファシズムに反対している人々の多くは,思想の自由が軍事上の弱さの源であると認めがちである。従って,この問題を,もう一度,もっと抽象的かつ分析的なやり方で吟味して見よう。
Chapter X: Creeds as Sources of Power, n.5
The cases in which fanaticism has brought nothing but disaster are much more numerous than those in which it has brought even temporary success. It ruined Jerusalem in the time of Titus, and Constantinople in 1453, when the West was rebuffed on account of the minute doctrinal differences between the Eastern and Western Churches. It brought about the decay of Spain, first through the expulsion of the Jews and Moors, and then by causing rebellion in the Netherlands and the long exhaustion of the Wars of Religion. On the other hand, the most successful nations, throughout modern times, have been those least addicted to the persecution of heretics.
Nevertheless, there is now a wide-spread belief that doctrinal uniformity is essential to national strength. This view is held and acted upon, with the utmost rigour, in Germany and Russia, and with slightly less severity in Italy and Japan. Many opponents of Fascism in France and Great Britain are inclined to concede that freedom of thought is a source of military weakness. Let us therefore examine this question once more, in a more abstract and analytic fashion.
出典: Power, 1938.
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