ラッセル『権力-その歴史と心理』第4章 聖職者(僧侶)の権力 n.6

 そのようなスキャンダルがあったにもかかわらず,デルファイの神託を支配すること(ができるかどうか)は(注:control of the oracle),由々しい戦争の原因になるほどの政治的に重要な問題であり続け,その戦争は,宗教と結びついていることから、「聖」戦と呼ばれた(のである)。しかし,長い目で見れば(結局),デルファイの神託は政治的支配にさらされているという事実が広く(一般に)認識されていたことで,自由思想の普及が促進され,それによって,ローマ人たちは,神聖冒漬の汚名をきせられることなく(注:without incurring the odium of sacrilege 冒涜の非難を引き起こすことなく),ギリシアの(諸)神殿からその富の大部分と権威の全てを奪い取ることを可能にしたのである。大部分の宗教制度は,遅かれ早かれ(早晩),大胆な人々の手によって,世俗的な目的に利用され,それによって,その(宗教制度)の権力の拠り所である尊敬を失うに至ることは(それらの宗教制度の)運命である。ギリシア=ローマ世界においては,他のどの地域よりも,これらの事態が,より円滑かつ変動もより少なく起こった。それは,(ギリシア=ローマ世界においては)宗教が,アジアやアフリカや中世ヨーロッパでそうであったように(力を持ったように),決して同様の力(強度)を持ったことが一度もなかったからである。この点でギリシアおよびローマとよく似た国は(古代)中国のみである。

Chapter IV: Priestly Power, n.6

In spite of such scandals, control of the oracle at Delphi remained a matter of such political importance as to be the cause of a serious war, called, on account of its connection with religion, the “Sacred” War. But in the long run the open recognition of the fact that the oracle was open to political control must have encouraged the spread of free thought, which ultimately made it possible for the Romans, without incurring the odium of sacrilege, to rob Greek temples of most of their wealth and all of their authority. It is the fate of most religious institutions, sooner or later, to be used by bold men for secular purposes, and thereby to forfeit the reverence upon which their power depends. In the Graeco-Roman world this happened more smoothly and with less upheaval than elsewhere, because religion had never the same strength as in Asia and Africa and mediaeval Europe. The only country analogous to Greece and Rome in this respect is China.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER04_060.HTM

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