近年,販売抵抗(sales resistance)を乗り越えるために,即ち,控えめな人たちに働きかけ,彼(彼女)等の財布のひもをゆるませ,自ら欲しいと全然思わない物品を購入させようと,厖大なお金と時間と頭脳が費やされてきた。そしてこういった事柄(たくさん物を売って営業成績をあげること)が立派なことであるかのように考えられるのが,我々の時代(現代)の1つの特徴である。
Throughout recent years, a vast amount of money and time and brains has been employed in overcoming sales resistance, i.e. in inducing unoffending persons to waste their money in purchasing objects which they had no desire to possess. It is characteristic of our age that this sort of thing is considered meritorious.
出典: On sales resistance (written in June 22, 1932 and pub. in Mortals and Others, v.1, 1975.]
詳細情報:http://russell-j.com/SALES-R.HTM
[寸言]
このエッセイ(「販売抵抗について」)は,80年前に書かれたものですが,現代でもほぼそのままあてはまる内容だろうと思います。来年の流行の色,流行の服,流行の○○は,これにしようと考える,(主として)企業関係者が現在多数いますが,その術中にはまる(あるいは違和感なく素直に受け入れる)人が少なくありません。多くの人々が本当に望むものであるならば,それも悪いことではありませんが,いつのまにか感覚が麻痺して,与えられることばかり望む(自主性の欠如する)ようになっているとしたら,不幸な事態といわなければなりません。
[寸言2]
「すぐに買いたい」とは思わないまでも,「あると便利そう」「コスト・パーフォンマンスがよさそう」とか思って,通販サイトで買う人はけっこういるようです。買って最初はよく使ってもしばらくするとほとんど使わなくなる。家にそういったものがいっぱいあるという家庭もすくなくないとのこと。
売る側も巧妙になっており,1年前から来年の流行の色は◯◯にしよう,来年のファッションはこれをはやらせようということを決めて,いろいろ宣伝活動(サブリナル効果醸成)をしていきます。そうするうちに自然に消費者がそういったものを選んだかのように思わせて,作られた流行に飛びつかせる。これは日本だけではなく,世界的な現象。その流行をつくり出すために YouTube の利用など,ITがフルに活用されています。そういったことは悪いことばかりではないですが,自分の頭や心で考えたり感じたりする習慣がしだいになくなっていきますので,いずれ虚しく感じる時がきそうです。