けれども,従うべき処世訓はいくつかある。
まず第一に,「青ひげ」(右イラスト)とか,「巨人退治のジャック」とかのお話(物語)は,残酷さについての知識を何も含んでいないので,現在考察している諸問題を引き起こさない。これらのお話(物語)は,子供にとって純粋に空想的なものであり,子供は決して現実の世界と結びつけたりしない。もちろん,子供がこれらのお話(物語)から引き出す喜びは,野蛮な本能と結びついているが,そういう本能は,無力な子供にあっては単なる遊びの衝動として無害であり,子供が成長するにつれて次第に消えていく傾向がある。
しかし,現実の世界の残酷さを子供に初めて教える時には,子供が自分を加害者ではなく,被害者(犠牲者)と同一視するような事件を選ぶように配慮しなければならない。子供が自分を暴君と同一視するお話(物語)においては,子供の中にある野蛮性が大喜びするであろう。この種のお話(物語)は,帝国主義者を生み出しがちである。(松下注:たとえば,第二次世界大戦において外国の軍隊をいたるところで打ち負かしている話を子どもに聞かせるなどする・・・。) だが,アブラハムがイサクを犠牲にしようとする話(物語)とか,エリシャ(Elisha)が呪った子供たちを雌グマが殺す話(物語)は,自然に他の子供に対する同情を引き起こす。そういう話をするときには,人間が遠いむかしに身を落とした深刻な残酷さを示すものとして,話さなければならない。
There are, however, certain maxims which should be followed. To begin with, stories such as Blue-beard and Jack the Giant Killer do not involve any knowledge of cruelty whatever, and do not raise the problems we are considering. To the child they are purely fantastic, and he never connects them with the real world in any way. No doubt the pleasure he derives from them is connected with savage instincts, but these are harmless as mere play-impulses in a powerless child, and they tend to die down as the child grows older. But when the child is first introduced to cruelty as a thing in the real world, care must be taken to choose incidents in which he will identify himself with the victim, not with the torturer. Something savage in him will exult in a story in which he identifies himself with the tyrant ; a story of this kind tends to produce an imperialist. But the story of Abraham preparing to sacrifice Isaac, or of the she-bears killing the children whom Elisha cursed, naturally rouses the child’s sympathy for another child. If such stories are told, they should be told as showing the depths of cruelty to which men could descend long ago.
出典: On Education, especially in early childhood, 1926, Pt. 2:Education of character, chap. 11: Affection and Sympathy
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/OE11-140.HTM
[寸言]
昔出版されていた「少年のための戦記漫画」には、太平洋戦争などで日本軍が破竹の勢いで敵(米国など)を打ち倒す様子が,少年の愛国心(=敵国人に対する野蛮な心)を育むように,ほこらしげに描かれていた。もちろん、水木しげるの戦争物のような、「戦争の悲惨さ」を描くものも少なくなかったが、それよりも「愛国心を育むもの」のほうがずっと多かったという記憶がある。
元防衛大臣の石破茂氏は(クリスチャンであり,キャンディーズ好きだというソフトなイメージをふりまいたとしても),基本的には「現代における軍国少年(軍事オタク)」とも言える人物であり、「敵前逃亡をはかった自衛隊員は死刑もありうることを自衛隊法に規定すべきだ」といった,国家主義的な発言をしばしばしている。
石破氏の子供時代の躾や教育に問題があったのでないか、と疑われる。