知的戯言の概要(1943) n.57

 強い恐怖(心)の影響下では、ほとんどの人が迷信的になるヨナ(注:旧約聖書なかの予言書の一つであるヨナ書の主人公/ここでは「ヨナ書」そのもの)を船外に投棄した船員達は、ヨナの存在が嵐の原因であり、自分達の船を難破させようとしていると想像した(のである)。これと同様の精神状態で、日本人は東京の震災(注:関東大震災)の時、朝鮮人と自由主義者(例:大杉栄)を虐殺をした。ローマ人がポエニ戦争(注:紀元前264年から146年の間に、三次にわたって行われた、ローマとカルタゴの戦い)で勝利した時、カルタゴ人は、自分達の不運は、モロク崇拝(注:Molochは、古代の中東地域で崇拝されたとされる神格で、主にカナン人やその周辺の民族によって崇拝され、子供の生け贄を捧げる儀式を行っていた)に忍び込んだある種のだらしなさ(laxity)によるものだ、と確信するにいたった。 モロクは子供を犠牲として捧げられることを好み、貴族の子供をより好んだ。しかし、カルタゴの貴族の家族は、自分達の子供のかわりに平民の子供を使うという慣行を採用した。これが神の不興を買った(機嫌を損ねた)と考えられたのである。そうして、最悪の瞬間においては、最も高位の貴族の子供達でさえ、火のなかで適切に(duly)焼かれてしまった。 不思議なことに、ローマ人は敵側におけるこのような民主的改革にもかかわらず勝利したのである。

Outline of Intellectual Rubbish (1943), n.57
Under the influence of great fear, almost everybody becomes superstitious. The sailors who threw Jonah overboard imagined his presence to be the cause of the storm which threatened to wreck their ship. In a similar spirit the Japanese, at the time of the Tokyo earthquake took to massacring Koreans and Liberals. When the Romans won victories in the Punic wars, the Carthaginians became persuaded that their misfortunes were due to a certain laxity which had crept into the worship of Moloch. Moloch liked having children sacrificed to him, and preferred them aristocratic; but the noble families of Carthage had adopted the practice of surreptitiously substituting plebeian children for their own offspring. This, it was thought, had displeased the god, and at the worst moments even the most aristocratic children were duly consumed in the fire. Strange to say, the Romans were victorious in spite of this democratic reform on the part of their enemies.

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