ラッセル『宗教と科学』第5章 魂と肉体 n.22


 科学にとって困難な事態が,自我のような実体は存在しないと思われること(事実)から,生じる。既に見たように,魂や肉体を,形而上学者たちが実体概念(実体の観念)と論理的に固く結びついていると考えた(logically bound up with),永続性(注:encurence through time 時間を貫いて持続する→永続する)を持った2つの「実体」と見なすことはもはや不可能である。(注:この一文は,荒地出版社刊の津田訳では「・・・★魂と肉体とが★「実体」で,形而上学者達が実体概念に論理的に結びついていると考えた★時間の永続性をもっている★と考えることはもはやできなくなった」となっている。多分「魂と肉体とは、・・・時間の永続性をもっている」というつもりであろうが、「時間の永続性」が何を意味しているかよくわからない。「endurance through time」の「through time」の意味を取りそこねたのではないかと想像される。「時間を貫いて持続する→永続する」と解釈すべきであろう)。また,心理学においても,知覚(作用)において「対象(物)」と接触する「主観」を想定する理由はまったく存在していない。ごく最近まで,物質は不滅であると考えられていたが,これは物理学の手法(technique 一連の処理方式)によってもはや想定されていない。原子は,今日では,一定の出来事をまとめる(グルーピングする)ための便宜的な方法(の一つ)にすぎない。(また)原子を電子を伴った核(原子核と電子で成り立っているもの)と考えることはある程度までは便利であるが,ある時刻(瞬間)における電子は別の時刻(瞬間)における電子と同一のものと見なすことはできず,また,いかなる場合においても,現代の物理学者でそれらを「実在(している)」と考えている者はいない。不変である(永遠である)と考えられた物的実体が存在していた時には(間は),精神(心)も同様に不変である(永遠である)に違いないと論ずることは容易だった。だが,この論拠(理由)は(過去においても)決してごく強力なものというものではなかったが,今日ではもはや通用しない。十分な理由として,物理学者たちは,原子を一連の事象(一塊の事象の集合)に還元した。心理学者たちは,(物質の場合と)同様に十分な理由になるものとして,精神(心)は単一の持続的な「もの」としての同一性を持たない,一定の密接な関係で結びついた一連の出来事(一塊の集合)であることを見出している。従って,不死の問題は,(現在では)これらの密接な関係が,生きている肉体に結びついた出来事と肉体が死んだ後に起る他の出来事との間に存在するかどうかという問題になっている。

Chapter V Soul and Body, n.22 The difficulty, for science, arises from the fact that there does not seem to be such an entity as the soul or self. As we saw, it is no longer possible to regard soul and body as two “substances,” having that endurance through time which metaphysicians regarded as logically bound up with the notion of substance. Nor is there any reason, in psychology, to assume a “ subject ” which, in perception, is brought into contact with an “ object.” Until recently, it was thought that matter is immortal, but this is no longer assumed by the technique of physics. An atom is now merely a convenient way of grouping certain occurrences ; it is convenient, up to a point, to think of the atom as a nucleus with attendant electrons, but the electrons at one time cannot be identified with those at another, and in any case no modern physicist thinks of them as “real.” While there was still material substance which was supposed to be eternal, it was easy to argue that minds must be equally eternal ; but this argument, which was never a very strong one, can now no longer be used. For sufficient reasons, physicists have reduced the atom to a series of events ; for equally good reasons, psychologists find that a mind has not the identity of a single continuing “thing,” but is a series of occurrences bound together by certain intimate relations. The question of immortality, therefore, has become the question whether these intimate relations exist between occurrences connected with a living body and other occurrences which take place after that body is dead.
 出典:Religion and Science, 1935, chapt. 5:
 情報源:https://russell-j.com/beginner/RS1935_05-220.HTM

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