ラッセル『権力-その歴史と心理』第7章 革命的な権力 n.3


 権力との関係において,キリスト教教義のなかで最も重要なものは,「人は人に従うよりもむしろ神に従うべきである」という言葉であった。この言葉は,ユダヤ人の間を除いて,それ以前に(その言葉が言われた以前に)類似した言葉がまったく存在したことがなかった教え(教訓)であった。確かに,宗教的義務はあったけれども,ユダヤ人やキリスト教徒の間でのこと(事例)を除いて,そのような宗教的義務国家に対する義務と衝突(矛盾)するものではなかった。異教徒たち(非キリスト教徒たち)は,ローマ皇帝の王権神授説の主張はまったく形而上学的な真理に欠けていると見なした時でさえ,皇帝崇拝(礼賛)に進んで黙従した。これに反して,キリスト教徒にとって,形而上学的な真理は最高に重要なものであった。もし自分たちが唯一の真実な神以外のものに礼拝を捧げたならば,それは天罰の危険を招くものだというふうに,彼ら信じていたのであり,地獄に落ちるくらいならばむしろ殉教するほうがより罪が軽いと信じていた。

Chapter VII: Revolutionary Power, n.3

In relation to power, the most important of Christian doctrines was: “We ought to obey God rather than man.” This was a precept to which nothing analogous had previously existed, except among the Jews. There were, it is true, religious duties, but they did not conflict with duty to the State except among Jews and Christians. Pagans were willing to acquiesce in the cult of the Emperor, even when they regarded his claim to divinity as wholly devoid of metaphysical truth. To the Christians, on the contrary, metaphysical truth was of the utmost moment: they believed that if they performed an act of worship to any but the one true God they incurred the risk of damnation, to which martyrdom was preferable as the lesser evil.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER07_030.HTM

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