子供が知りたがっていることを無知にしておくことの弊害

 少年はみな汽車(注:今なら電車 or SL)に興味を持っている。(たとえば)汽車に興味を持つことは悪い(不道徳な)ことであると少年に言ったとしてみよう。(あるいは)少年が汽車に乗っているときや,駅にいるときにはいつもその少年の目に包帯をしておくと仮定してみよう。彼のいる前では,「汽車」という言葉を口にすることが許されず,彼がある場所から他の場所に運ばれる手段に関しては、計り知れない神秘のままに保たれる,と仮定しておこう。その結果は,少年が汽車に興味を失うということにはならないであろう。逆に,彼はより興味を持つことになるであろうが,病的な罪の意識を持つようになるであろう。なぜなら,この興味は,彼には不道徳(不適切)なものとされてきたからである。活発な知性を持つ少年なら,大なり小なり,この方法によって神経衰弱になりうることであろう。これがまさしく,性の問題ににおいてなされたことなのである。しかし,性は汽車よりも興味があることなので,結果はもっと悪い。キリスト教社会(在住)の大部分の大人(成人)が,彼らが若かった時に,性の知識がタブーとなっていた結果として,多かれ少なかれ(現在)神経を病んでいる(注:あくまで,このエッセイが発表された1930年代の欧米の状況です)。そして,そのようにして,人為的に植えつけられた罪の意識は,その後における(大人になってからの)残酷さ,臆病さ,愚かさ,の原因の一つである性の問題であれ,その他の問題であれ,子供が知りたがっていることを無知にしておくことには,いかなる種類の合理的な根拠もない。この事実(真実)が初等教育で認められるまで,健全な住民を決しては得られないであろうが,教会が教育政策を支配できるかぎり,それは不可能である。

Every boy is interested in trains. Suppose we told him that an interest in trains is wicked; suppose we kept his eyes bandaged whenever he was in a train or on a railway station; suppose we never allowed the word “train” to be mentioned in his presence and preserved an impenetrable mystery as to the means by which he is transported from one place to another. The result would not be that he would cease to be interested in trains; on the contrary, he would become more interested than ever but would have a morbid sense of sin, because this interest had been represented to him as improper. Every boy of active intelligence could by this means be rendered in a greater or less degree neurasthenic. This is precisely what is done in the matter of sex; but, as sex is more interesting than trains, the results are worse. Almost every adult in a Christian community is more or less diseased nervously as a result of the taboo on sex knowledge when he or she was young. And the sense of sin which is thus artificially implanted is one of the causes of cruelty, timidity, and stupidity in later life. There is no rational ground of any sort or kind in keeping a child ignorant of anything that he may wish to know, whether on sex or on any other matter. And we shall never get a sane population until this fact is recognized in early education, which is impossible so long as the churches are able to control educational politics.
出典:Has Religion Made Useful Contributions to Civilization? 1930
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/0466HRMUC-040.HTM

<寸言>
体制にとって、大人にとって、◯◯にとって,「不都合なことは知らせないでおこう(隠しておこう)という態度。
【古今の為政者の態度:(由(よ)らしむべし知(し)らしむべからず 《「論語」泰伯から》人民を為政者の施政に従わせることはできるが、その道理を理解させることはむずかしい。】

真実を知られたら社会が安定しないなどという考え方や思い込みは,支配する側にとってはそれほど悪いことではないと思われるかも知れないが、それを知った時の人間(国民、子供、その他支配される側)にとっては最悪とも言えること。真実が明らかになった時の反動のほうが悲惨なことになるかも知れない。

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