知的戯言の概要(1943) n.15

 罪の概念(notion)には論理的な難点がある(訳注:concept = 客観的な概念;notion = 主観的概念)。我々は、罪は神の命令に服従しないことにある(従わないことで成り立っている)と言われるが、神は全能であるとも言われる。 (しかし)もし仮に神が全能であるならば、神の意志に反することは何も起こり得ないだろう(神は全能なんだから起こり得るはずはない)。従って、罪人(つみびと)が神の命令に服従しない場合には、神はそうなることを意図したのであるに違いない(ということになる/はずである)。聖アウグスティヌス(Aurelius Augustinus、354年- 430年:西ローマ帝国時代のカトリック教会の司教、神学者、哲学者)は大胆にもこの見解を受け入れ、そうして、神が人々(人間)に課することに盲目であることによって、彼ら(人間)は罪へと導かれるのだ、と主張する。しかし 現代の神学者の大部分は、もし神が人々(人間)の罪を犯す原因であるならば、人々(人間)がなさざるをえないことを理由にして彼ら(人間)を地獄に送ることは公正(フェア)ではない、と感じてきている。(また)我々は、 罪は神の意志に反して行動することにある(おいて成り立つ)と言われる。けれども、これは(これも)(罪の概念に含まれている)論理的難点を取り除かない。スピノザのように、神の全能を真面目に取る人々は 罪などというものは存在し得ない(ありえない)と推論(演繹)する。これは恐ろしい結果へと導く。スピノザの同時代人は言った。「何だと!? ネロが自分の母親を殺したのは邪悪ではないと言うのか!? アダムが(神が禁止していた)リンゴを食べたのはアダムの罪ではないというのか!? ある行為は別の行為と同様に良いというのか?(=行為に良し悪しはないというのか?) スピノザはそれにより身悶えするが、(他に)満足できる答えを見出すことができない。 もし仮に、あらゆることが神の意志に一致して生じるのだとすれば、神はネロがその母親を殺すことを望んでいたに違いない。従って、神は善であるのであるから、ネロの母殺しは良いことであったのにちがいない。 この議論から逃れることはまったくできない。

Outline of Intellectual Rubbish (1943), n.15 There are logical difficulties in the notion of Sin. We are told that Sin consists in disobedience to God’s commands, but we are also told that God is omnipotent. If He is, nothing contrary to His will can occur; therefore when the sinner disobeys His commands, He must have intended this to happen. St. Augustine boldly accepts this view, and asserts that men are led to sin by a blindness with which God afflicts them. But most theologians, in modern times, have felt that, if God causes men to sin, it is not fair to send them to hell for what they cannot help. We are told that sin consists in acting contrary to God’s will. This, however, does not get rid of the difficulty. Those who, like Spinoza, take God’s omnipotence seriously, deduce that there can be no such thing as sin. This leads to frightful results. What! said Spinoza’s contemporaries, was it not wicked of Nero to murder his mother? Was it not wicked of Adam to eat the apple? Is one action just as good as another? Spinoza wriggles, but does not find any satisfactory answer. If everything happens in accordance with God’s will, God must have wanted Nero to murder his mother; therefore, since God is good, the murder must have been a good thing. From this argument there is no escape.
 Source: Bertrand Russell : An Outline of Intellectual Rubbish, 1943  Reprinted in: Unpopular Essays, 1950, chapter 7:
 More info.: http://www.ditext.com/russell/rubbish.html

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