第15章 権力と道徳律, n.26

 倫理上の論争は,しばしば手段に関するものであり、目的に関するものではない。奴隷制度は、経済的ではないという論拠で攻撃を受けることがある。女性(婦人)の隷属は、(隷属的な女性よりも)自由な女性の話のほうが興味深いというような主張によって批判されることもある。迫害によって生み出された宗教的確信は本物ではないという根拠(ついでに言えば、この根拠はまったく誤った推論に基づいている。(incidentally 因みに(ついでながら)に立って、迫害は嘆かわしいかも知れない(嘆かわしいとされるかも知れない)。けれども、そのような議論に隠れて(議論の背後には)、一般に,(めざす)目的についての違いがある。時には、(たとえば)ニーチェのキリスト教批判の場合のように、目的の相違がむきだしに明らかになる(ことがある)。キリスト教倫理においては,すべての人は同様に大切である。ニーチェにとって、大多数の人間は,英雄にとって,一つの手段に過ぎない目的についての論争は、科学上の論争のように,事実に訴えて行うわけにはいかない。そうした論争は、人々の感情を変えさせようとする試みによって行わなければならない。(人々の気持ちを変化させるために)キリスト教徒は同情(心)をひきおこそうとするかも知れない(may 可能性がある/ことがある)。ニーチェ哲学の信奉者(Nietzschean)は自尊心(誇り)を刺戟しようとするかも知れない(みすず書房版の東宮訳では、「ニーチェ」と誤訳)。経済的権力や軍事的権力は宣伝を強化するかも知れない。要するに、その競争は,端的に言えば,(より大きな)権力を求めての通常の競争(争い)である。いかなる信条も、(たとえば)普遍的平等を説く信条でさえ、一セクトが支配権を握るための(一)手段であるかも知れない(である可能性がある)。たとえば、フランス市民革命が武力によって民主主義を拡めようと着手しはじめた時に、このことが起こっている。

Chapter 15: Power and Moral Codes, n.26 Ethical controversies are very often as to means, not ends. Slavery may be attacked by the argument that it is uneconomic; the subjection of women may be criticized by maintaining that the conversation of free women is more interesting ; persecution may be deplored on the ground (wholly fallacious, incidentally) that the religious convictions produced by it are not genuine. Behind such arguments, however, there is generally a difference as to ends. Sometimes, as in Nietzsche’s criticism of Christianity, the difference of ends becomes nakedly apparent. In Christian ethics, all men count alike; for Nietzsche, the majority are only a means to the hero. Controversies as to ends cannot be conducted, like scientific controversies, by appeals to facts; they must be conducted by an attempt to change men’s feelings. The Christian may endeavour to rouse sympathy, the Nietzschean may stimulate pride. Economic and military power may reinforce propaganda. The contest is, in short, an ordinary contest for power. Any creed, even one which teaches universal equality, may be a means to the domination of a section; this happened, for instance, when the French Revolution set to work to spread democracy by force of arms.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER15_260.HTM

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