第14章 競争,n.15

 革新者にはもう一つ別の種類のものがあり,それは進化論(evolution)が流行するようになって初めて存在するようになったもの(種類)である。サンデカリスト時代のジュリアン・ソレル(注:スタンダールの小説『赤と黒』の主人公の美貌の青年貴族の婦人や令嬢を踏み台にして出世の階段を昇っていくが失敗。そうして,死を前にして真実の愛にめざめる。)をその典型としてあげてもよいだろう。こういった人たちは次のような考えを抱く。 即ち、人生は連続的な(絶え間ない)進歩であるべきであり,その進歩は一つの明確な目標に向かうものではなく,また進歩がなされてしまうまではいかなる意味においてもそれ(その進歩)がどんなものであるか正確に述べることはできない(というものである)。見えないよりは見えるほうがよいし,しゃべれないよりはしゃべれたほうがよいのは確かだ,といった具合である。しかし,全ての動物がいまだ目が見えない間は,それらの動物が,視覚の獲得を次の改革の一段階として提案することは不可能であった(注:たとえば、原生動物には視覚はない)。にもかかわらず,それが次の進歩の一段階であったという事実は,遡って考えると,静的な保守主義は間違いであったであろうことを証明する(間違いであったであろうことがわかる)。従って,革新は すべて奨励されなければならない,と彼(ソレル)は論ずる。なぜなら,そうした革新のうちのどれかが,それがどれかということを(事前に)我々は知ることができないが,いずれかが進化(論)の精神を具現化するものであることが(後から)わかるであろうからである。  疑いもなく,この見解には真理の一要素がある。しかし,それは容易に進歩についての浅薄な神秘主義へと発展しがちであり,実際政治の基礎にすることはできない。歴史上の重要な革新者たちは,天上の王国を強襲によって奪うこと(ができること)を信じてきた(take ~ by storm 強襲して~を奪う)。(即ち)彼らはしばしば自分たちの王国を手に入れてきたが,しかし,(後に)それは天上の王国ではないことが明らかになった(のである)。

Chapter 14: Competition, n.15 There is another kind of innovator, who has only existed since evolution became fashionable ; of this kind Sorel in his syndicalist days may be taken as typical. Such men hold that human life should be a continual progress, not towards a definable goal, not in any sense that can be stated precisely before the progress has been made, but of such a sort that each step, when achieved, is seen to have been an advance. It is better to see than not to see, to have speech than to be without it, and so on; but while all animals were still blind, it was not possible for them to propose the acquisition of sight as the next step in reform. Nevertheless, the fact that it was the next step proves, retrospectively, that a static conservatism would have been a mistake. All innovations, therefore — so it is argued — must be encouraged, since one among them, though we cannot know which, will prove to embody the spirit of evolution. No doubt there is an element of truth in this view, but it is one that easily develops into a shallow mysticism of progress, and owing to its vagueness it cannot be made a basis for practical politics. The historically important innovators have believed in taking the kingdom of heaven by storm; they have often achieved their kingdom, but it has proved to be not the kingdom of heaven.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER14_150.HTM

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です