第六章 ロマンティックな恋愛 n.11:幻想の上に立つ結婚は長続きしない
結婚は,二人の人間が一緒にいる喜びよりも,もっと重大なものである。結婚は,そこから子供が生まれるという事実を通して,社会の緊密な構造(組織/生地)の一部を形成し,夫と妻の個人的な感情をはるかに越えた重要性をもつ(一つの)制度である。ロマンチックな恋愛が結婚の動機となるのはよいことかもしれないが-私はよいことだと思っている。-,結婚を幸福であり続けることを可能にし,その社会的目的を果たさせる種類の恋愛は,ロマンチックなものではなく,それよりも,もっと親密かつ愛情深くかつ現実的なものであるということを理解しなければならない(理解されなければならない)。
ロマンチックな恋愛においては,愛する対象(相手)を,ありのままには見ることなく,魅惑的な霧を通して見る。疑いもなく,ある特定のタイプの女性は,ある特定のタイプの夫をもてば(持った場合であれば),結婚後でさえも,この霧に包まれ続けることが可能である。しかし,これが可能になるのは,夫と真に親密になるのをいっさい避けて,ある程度の肉体の秘密と同様に,胸に深く秘めた考えや感情についても,スフィンクスのような秘密を保持する場合に限られる。
けれども,このような巧妙な処置(策略)は,結婚がその最高の可能性を実現するのを妨げることになるのであり,結婚の最高の可能性は幻想をまったく混じえない愛情深い親密さに依存しているのである。さらに,ロマンチックな恋愛は結婚に不可欠であるとする物の見方は,あまりにも無政府的であり,正反対の意味ではあるが,聖パウロの見解と同様,結婚を重要なものにしているのは子供であるという事実を忘れている(見落としている)。子供がいなければ(子どもが生まれることがなければ),性に関する制度はいっさい不要になるだろう。しかし,子供がからんでくるやいなや,夫と妻は,いやしくも責任感があり,子供に対する愛情が少しでもあるのであれば,夫婦相互の感情はもはや一番重要なものではない,ということを悟らざるをえないのである。
Chapter VI: Romantic Love n.11
Marriage is something more serious than the pleasure of two people in each other’s company ; it is an institution which, through the fact that it gives rise to children, forms part of the intimate texture of society, and has an importance extending far beyond the personal feelings of the husband and the wife. It may be good –I think it is good– that romantic love should form the motive for a marriage, but it should be understood that the kind of love which will enable a marriage to remain happy and to fulfil its social purpose is not romantic, but is something more intimate, affectionate and realistic. In romantic love the beloved object is not seen accurately, but through a glamorous mist. Undoubtedly it is possible for a certain type of woman to remain wrapped in this mist even after marriage, provided she has a husband of a certain type; but this can only be achieved if she avoids all real intimacy with her husband and preserves a sphinx-like secrecy as to her inmost thoughts and feelings, as well as a certain degree of bodily privacy. Such manoeuvres (maneuver), however, prevent a marriage from realizing its best possibilities, which depend upon an affectionate intimacy quite unmixed with illusion. Moreover, the view that romantic love is essential to marriage is too anarchic, and, like St. Paul’s view, though in an opposite sense, it forgets that children are what makes marriage important. But for children, there would be no need of any institution concerned with sex, but as soon as children enter in, the husband and wife, if they have any sense of responsibility or any affection for their offspring, are compelled to realize that their feelings towards each other are no longer what is of most importance.
出典: Marriage and Morals, 1929.
詳細情報:https://russell-j.com/beginner/MM06-120.HTM
<寸言>
結婚はあくまでも(法律に規定された))一つの社会制度であり、(離婚によって経済的な不利益などを受けない)理想社会においては、子供がいない場合は、社会はそのカップルを規制する必要がない。子供ができるから弱者である子どもを守ったり、育児中の女性を保護する法律が必要がある。完全な男女平等が行き渡った社会においては、子どもがいない場合は自由恋愛が原則であり、どちらも法律でしばる必要はないはずである。もちろん、今はそういった社会にはなっていないので、法律で弱者保護の規定をいろいろしておく必要がある。