人間を一つの,あるいは少数の,厳格な鋳型に押し込んではならない

 私は、私が社会的,政治的諸問題に関して(これまで)行ったことは非常に重要であったなどと,言い立てることはできない。教条的かつ明確な福音,たとえば共産主義の 教条的かつ明確な福音によって,甚大な影響をあたえることは比較的容易である。私としては,人類が必要とするものは何か明確なもの,あるいは教条的なものであるなどとは信ずることができない。また,私は人間生活のある部分ないし側面だけを扱ういかなる部分的な(不完全な)教義(信条)も,心の底から信ずることはできない。全ては制度に依存しており,良い諸制度は不可避的に至福千年期をもたらすと考えている人たちがいる。他方,必要なものは心の変化であり,これに較べれば,制度はほとんど重要ではないと信じている人たちがいる。私はどちらの見解も受けいれることができない。
制度は人格(人間)を形成し,人格(人間)は制度を変容させる。両方の改革は手に手を取り合って進まなければならない

個人が当然持つべき創意と柔軟性の量を保持するためには,各個人はすぺて一つの厳格な鋳型におし込まれてはならない。あるいは,別の比喩をもちいれば,一つの軍隊を作るように訓練されてはならない。多様性は,単一の福音を全ての人々が受けいれることを排除するという事実にもかかわらず,必須のものである(本質的に重要なものである)。しかしそのような教えを説くことは,特に困難な時代においては難しいことである。しかも,おそらく,ある種のにがい教訓が悲劇的な経験から学びとられるまで,そのことは実際の効果(影響)を与えることができないであろう。

I cannot pretend that what I have done in regard to social and political problems has had any great importance. It is comparatively easy to have an immense effect by means of a dogmatic and precise gospel, such as that of Communism. But for my part I cannot believe that what mankind needs is anything either precise or dogmatic. Nor can I believe with any wholeheartedness in any partial doctrine which deals only with some part or aspect of human life. There are those who hold that everything depends upon institutions, and that good institutions will inevitably bring the millennium. And, on the other hand, there are those who believe that what is needed is a change of heart, and that, in comparison, institutions are of little account. I cannot accept either view. Institutions mold character, and character transforms institutions. Reforms in both must march hand in hand. And if individuals are to retain that measure of initiative and flexibility which they ought to have, they must not be all forced into one rigid mold; or, to change the metaphor, all drilled into one army. Diversity is essential in spite of the fact that it precludes universal acceptance of a single gospel. But to preach such a doctrine is difficult especially in arduous times. And perhaps it cannot be effective until some bitter lessons have been learned by tragic experience.
出典: Reflections on My Eightieth Birthday (1952)
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/0987_RoMEB-040.HTM

<寸言>
多様性を保つことは非常に重要である。しかし,社会や世界が危機に陥ると多様性も危機に陥る。そのような時代にあって冷静さを保ち,多様性をこわす流れに抗することは非常に困難かつ重要なことである。

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