第10章 権力の源泉としての信条 n.12


 (それならば)国家の威信を維持するためにはどの程度まで(国民の)自由に干渉することが必要であろうか?  現実に起きている(数々の)自由への干渉は,主にこの(国家の威信の維持)という目的を持っている (注:みすず書房版の東宮訳では,”national pride” を「国民としての誇り」と訳されているが,「国民の自由へ干渉することが国民のほこりを保つために必要」というブラック・ジョークになってしまう。ここは「国家の威信」と訳すべきであろう)。ロシアでは政府公認の正説に一致しない人々(意見の違う人々)は,非愛国的なやり方で行動する傾向がある(非国民!)と考えられている。ドイツとイタリアにおいては,政府の強さは,政府によるナショナリズム(国家主義)に対するアピールにかかっており,政府に対する反対はいかなるものもモスクワ(=ロシア)を利するものだと考えられている。フランスにおいては,もし(自由の国フランスで)自由が失われるとすれば,それは多分,親独的な裏切りを妨ぐためであろう。これらの国々の全てにおいて困難なことは,階級闘争が(諸)国家の(様々な)争い(紛争)の邪魔をし,そのことが,民主主義国においては資本家が,ファシズムの国々においいては社会主義者と共産主義者が,ある程度まで,国益以外の他の考慮によって,動かされる原因となっている(注:causing ~ to be guided 左右される原因となっている)ことである。もしこのような愛国主義的な目的からの逸脱を防ぐことができれば(注:愛国主義的目的に徹することができれば),一国の強さは増すであろう(注:東宮氏は nationalist aims を「国民的な目的」と誤訳している。 nationalist を別の単語と勘違いしたのか?)。しかし,そのために,もし知性の水準全体を引き下げることが必要だということなら,国力の増大はしそうもない(注: but not if it is necessary, for the purpose, to lower the whole level of intelligence. の中の”not” を適切に解釈することが重要)。諸国政府にとって,これは難しい問題である。というのは,ナショナリズム(国家主義)は愚かな理想であり,聡明な人々はヨーロッパがこのナショナリズム(国家主義)のために破滅しつつあると気づいているからである。最良の解決策は,このナショナリズム(国家主義)を,何らか国際的なスローガンのもとに,たとえば民主主義とか共産主義とか集団的安全保障とかいうようなスローガンのもとに,変装させることである。イタリアやドイツのように,これのできないところ(国)では,外的な一律性を得るために暴政(圧政)が必要となり,容易に本物の内的な感情を生みだすことができない(のである)。

Chapter X: Creeds as Sources of Power, n.12 How much interference with freedom is necessary for the maintenance of national pride? The interferences which actually occur have mainly this end in view. In Russia, it is thought that those who disagree with the official orthodoxy are likely to behave in an unpatriotic manner; in Germany and Italy, the strength of the government depends upon its appeal to nationalism, and any opposition is considered to be in the interests of Moscow; in France, if liberty is lost, it will probably be to prevent pro-German treachery. In all these countries, the difficulty is that the class-conflict cuts across the conflicts of nations, causing the capitalists in democratic countries, and the Socialists and Communists in Fascist countries, to be guided, to some extent, by other considerations than those of the national interest. If this diversion from nationalist aims can be prevented, a country’s strength is likely to be increased, but not if it is necessary, for the purpose, to lower the whole level of intelligence. For governments the problem is a difficult one, since nationalism is a stupid ideal, and intelligent people perceive that it is bringing Europe to ruin. The best solution is to disguise it under some international slogan, such as democracy or communism or collective security. Where this cannot be done, as in Italy and Germany, outward uniformity demands tyranny, and does not easily produce a genuine inward sentiment.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER10_120.HTM

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