ラッセル『権力-その歴史と心理』第9章 世論に対する影響力 n.9


 私は宣伝(人々の)欲求に訴えかけなければならないと述べたが,このことは,国家宣伝が国民感情と対立した場合に失敗することによって,多分,確証されるであろう。それは(実際),第一次大戦前のオーストリア=ハンガリー(帝国)の大部分や,1922年以前のアイルランドや,現在に至るまでのインドにおいて確認されている。宣伝は,その宣伝対象の人物(patient 対象患者)の何物かと調和した場合にのみ成功する。たとえば,不滅の魂に対する欲求健康に対する欲求自国の偉大さに対する欲求、その他いろいろ、と調和しなくてはいけない。そのような基本的な(重要な)理由がまったくない場合には,権威(権力者)の主張は,冷笑的な懐疑の眼で見られるだけである。政府の観点からみた場合の民主主義の長所の一つは,民主主義は政府が一般市民を騙し易くしてくれることである。その理由は,一般市民は民主主義(的な)政府を「自分(たち)の」政府(注:押し付けられた政府ではなく自分たちが選んだ政府)と考えるからである。迅速に良い結果が出ない戦争に対する反対(の感情)は,いかなる政治体制(constitution)下においてよりも民主主義体制下においては,生じるのがずっと遅い。民主主義国においては,大多数の人々が政府に背を向けるのは,自分たちの選んだ指導者(たち)を今までよく思ってきたのは間違っていたということを自認した時のみであり,そのようなことは(大多数の人々にとって)困難なことであり不愉快なことである(注:自分の間違いをできるだけ認めたくないという気持ち)。

Chapter IX: Power Over Opinion, n.9

I said that propaganda must appeal to desire, and this may be confirmed by the failure of State propaganda when opposed to national feeling, as in large parts of Austria-Hungary before the War, in Ireland until 1922, and in India down to the present time. Propaganda is only successful when it is in harmony with something in the patient: his desire for an immortal soul, for health, for the greatness of his nation, or what not. Where there is no such fundamental reason for acquiescence, the assertions of authority are viewed with cynical scepticism. One of the advantages of democracy, from the governmental point of view, is that it makes the average citizen easier to deceive, since he regards the government as his government. Opposition to a war which is not swiftly successful arises much less readily in a democracy than under any other form of constitution. In a democracy, a majority can only turn against the government by first admitting to themselves that they were mistaken in formerly thinking well of their chosen leaders, which is difficult and unpleasant.
 出典: Power, 1938.
 詳細情報:https://russell-j.com/beginner/POWER09_090.HTM

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