ラッセル『結婚論』第八章 性知識に関するタブー, n.1


第八章 性知識に関するタブー, n.1: 「無知」を必要とするような性道徳はダメ

 新しい性道徳を構築する試みにおいて,最初に自問しなければならない問題は,(男女の)性関係をいかに規制するべきかということではなく,男性や女性や子供が性の問題に関する事実について人為的に無知のままにしておかれてよいのかということである。私がなぜ,最初にこの(性に関する知識に関する)問いを提起し理由は,本章において私が読者によく納得してもらうように努めるように,そのような事柄(問題)に関する無知は,個々人にとってはなはだ有害であり,それゆえそのような無知を要求しなければ永続できないようないかなる制度も望ましいものではないからである。私に言わせれば,性道徳は,よく事柄について知っている人々に気に入られるようなものであるべきであり(注:commend itself 気に入られる),無知につけこんで訴えようとするものであってはならない。これは,より広い原理の一部であり,政府や警察官が決して認めたことはなかったものではあるが,理性に照らして疑う余地のないものと思われる。

 その原理とは,正しい行為は,稀な偶然による場合を除いて,無知によって促進されたり,知識によってさまたげられたりすることは絶対にないというもの(原理)である。もちろん,もしAが,Aの利益にはなってもBの利益にはならないような行為をBにさせたいと思うなら,Bの真の利益がどこにあるかを示すような事実をBに知らせないでおくほうがAにとって有利であることは確かである。この事実は,株式取引所(株式市場)ではよく理解されているが,倫理という高い部門に属しているとは,一般的には考えられていない。これは,事実を隠蔽しようとする際の政府の活動の大部分にあてはまるのである たとえば,いずれの国の政府も,戦争における敗北に関する話題はいっさい差し止めたいと願っている。というのは,戦争における敗北が(国民)知れると,政府の崩壊をまねくかもしれないし,それは通例,国民の利益にはなっても,政府の利益にはならないからである。

Chapter VIII: The Taboo on sex knowledge, n.1

In the attempt to build up a new sexual morality, the first question we have to ask ourselves is not, how should the relations of the sexes be regulated,but, is it good that men, women, and children should be kept in artificial ignorance of facts relating to sexual affairs? My reason for putting this question first is that, as I shall try to persuade the reader in this chapter, ignorance on such matters is extraordinarily harmful to the individual, and therefore no system whose perpetuation demands such ignorance can be desirable. Sexual morality, I should say, must be such as to commend itself to well-informed persons and not to depend upon ignorance for its appeal. This is part of a wider doctrine which, though it has never been held by Governments or policemen, appears indubitable in the light of reason. That doctrine is that right conduct can never, except by some rare accident, be promoted by ignorance or hindered by knowledge. It is, of course, true that if A desires B to act in a certain manner which is in A’s interest but not in B’s, it may be useful to A to keep B in ignorance of facts which would show B where his true interest lies. This fact is well understood on the Stock Exchange, but is not generally held to belong to the higher departments of ethics. It covers a large part of Governmental activity in concealing facts-for example, the desire which every Government feels to prevent all mention of a defeat in war, for the knowledge of a defeat may lead to the downfall of the Government, which, though usually in the national interest, is, of course, not in the interest of the Government.
出典: Marriage and Morals, 1929.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM08-010.HTM

<寸言>
政府にとって都合の悪い情報は国民に知らせず、マスコミをコントロールして政権運営を楽にさせることはいずれの時代の権力者もやること。政治家は国益を強調するが、「国家の利益(=政府にとっての利益)」と「国民の利益」が相違する場合がけっこうあることをよく念頭においておく必要がある。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です