ラッセル『結婚論』第六章 ロマンティックな恋愛 n.1


第六章 ロマンティックな恋愛 n.1:野蛮な男女関係

 キリスト教と野蛮人(注:ゲルマンの異教徒など)の勝利とともに,男と女の関係は,古代世界では何世紀にもわたって知られていなかったほどの野蛮さ(獣性)に低下した。古代世界は邪悪ではあったが,獣的ではなかった。(ヨーロッパの)暗黒時代においては,宗教と野蛮が結びついて,人生の性的側面の地位を低下させた(品位を低下させた)。結婚生活においては,妻にはなんの権利もなかった。結婚生活の外では,いっさいが罪であったので,文明化されていない男の自然のままの獣性を抑えるための目標(object 目的)がなかった。中世における不道徳は,広く行きわたり,嫌悪をもよおすものであった。司教は,自分の娘とおおっぴらに罪の生活を送り,大司教は,お気に入りの若者(男性)を近くの司教管区(の司教職)に昇進させた。(注:リー『中世における宗教裁判史』第一巻,pp.9,14/男色のことを言っている。)
聖職者の独身に対する信念(独身が善いという考え)は,しだいに強くなってはいたが,実践が教訓に追いつけなかった教皇グレゴリウス七世は,司祭たちに内妻(妾)と手を切らせようと大変努力したが,後年のアベラールの時代になっても,彼は(アベラールが)エロイーズと結婚することは醜聞的ではあるが,不可能ではない,と考えていたことを見出している(知っている)。聖職者の独身制が厳格に強制されたのは,ようや13世紀の末頃になってからのことである。
もちろん,聖職者は相変らず,女性と不倫の関係を続けていた。もっとも,聖職者は,そういう関係に,品位も美も添えることはできなかった。聖職者はみずからが,そういう関係を不道徳で不純だと考えていたからだ。また,キリスト教会も,性に対して禁欲的な見方をしていたために,恋愛の概念を美化することは何ひとつできなかった。これをするのは,当然,俗人の仕事となった。

Chapter V Christian Ethics

With the victory of Christianity and the barbarians, the relations of men and women sank to a pitch of brutality which had been unknown in the ancient world for many centuries. The ancient world was vicious, but not brutal. In the Dark Ages, religion and barbarism combined to degrade the sexual side of life. In marriage, the wife had no rights; outside marriage, since all was sin, there was no object in curbing the natural beastliness of the uncivilized male. The immorality of the Middle Ages was widespread and disgusting ; bishops lived in open sin with their own daughters, and archbishops promoted their male favourites to neighbouring sees. (note: Lea, History of the Inquisition in the Middle Ages, vol. i, pp. 9, 14) There was a growing belief in the celibacy of the clergy, but practice did not keep pace with precept. Pope Gregory VII made immense exertions to cause priests to put away their concubines, yet so late as the time of Abelard we find him regarding it as possible, though scandalous, for him to marry Heloise. It was only towards the end of the thirteenth century that the celibacy of the clergy was rigidly enforced. The clergy, of course, continued to have illicit relations with women, though they could not give any dignity or beauty to these relations owing to the fact that they themselves considered them immoral and impure. Nor could the Church, in view of its ascetic outlook on sex, do anything whatever to beautify the conception of love. To do this was necessarily the work of the laity.
出典: Marriage and Morals, 1929.
詳細情報:http://russell-j.com/beginner/MM06-010.HTM

<寸言>
女子校や男子校においては,同性に対する恋愛感情が起こりやすいが、原則女人禁制の教会や修道院においても、同性愛や男色がめずらしいことではなかった。
古今東西、権力者の間においても同性愛や男色はめずらしいことではなく、テレビの大河ドラマ(時代物)でも、お小姓などが権力者の男色の相手として登場するのを目にする。

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